女性比率の高い業種でも、なぜか内部昇進役員がいない

女性の人材プールが大きいため、女性役員が誕生しやすい業種もあれば、人材プールが小さく内部昇進の女性役員は誕生せず、社外からの活用に依存せざるを得ない業種もある。

例えば、女性役員比率の高い「保険」や、「小売」「空運」などの業種では一般労働者に占める女性比率が高い。「石油」は、女性比率が低く内部の人材プールが小さい実態を踏まえ、社外からの人材活用を図ることによって女性役員登用を進めている業種である。製造業のセクターの中では最も女性比率の高い「繊維」では、なぜか内部昇進の女性が誕生していない。こうした業種では、女性の人材確保が行われ人材プールが一定程度あるが、女性社員の育成や活用のプロセスがうまくいっていない可能性がある。

内閣府の調査によると、女性役員比率の低い「パルプ・紙」「鉄鋼」「機械」「ゴム製品」「建設」「精密機器」においては、1社あたりの女性部長の平均人数が2012年から2016年にかけてわずかではあるが増えている(「女性役員登用の閣議決定目標『2020年10%』達成に向けて」平成29年2月)。ただ、そのうち「鉄鋼」「パルプ・紙」「繊維」「ゴム製品」においては1社あたりの女性執行役員の平均人数は増えていない。これらの業種では、部長職等の管理職までの女性登用は進んでいるが、その先の役員登用に壁があるのだろう。

女性役員比率が非常に低い現状からそれを一定水準にまで引き上げていかなければならない過渡期においては、外部人材をうまく活用し、国内外での競争に打ち勝つために独立性のある役員の知恵を経営戦略に取り入れていくやり方も十分にあり得る。しかし、女性役員を積極的に登用し、企業の持続的な成長や企業価値の向上を図るという視点から考えると、内部昇進の女性役員を増やしていくことに企業が真剣に向き合うことが重要である。

女性管理職の育成が女性役員増加の王道

中長期的に内部昇進の女性役員を増やしていくには、まずは女性従業員一般について、キャリア形成が可能となる配置転換や人材育成を行うことで、女性管理職(課長職や部長職)を着実に増やす必要がある。管理職の女性を企業内で育成していくことが、将来、役員の候補となる女性の人材プールの拡大となる。

女性役員や女性管理職への登用を積極的に行う企業では、企業組織の活性化やイメージアップが図られる可能性があり、中長期的な企業の成長につながることが期待される。ダイバーシティの潮流に乗り遅れずに女性役員の登用を積極的に行うために、業種や各社の現状の違いに応じた、企業の取り組みが求められる。

菅原 佑香(すがわら・ゆか)
大和総研研究員
2010年大和総研入社。システムエンジニアを経て、2016年よりリサーチ部門に異動し研究員に転向。現在、政策調査部にて、働き方改革や女性活躍を中心とした国の政策や経済の課題に関する調査・研究業務に従事。2019年お茶の水女子大学大学院博士課程修了。博士(社会科学)。専門は、企業の人事・雇用管理や雇用・労働政策、家族政策。
(写真=iStock.com)
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