必要性は認識していても、実効性がともなわない
近年、上場企業における女性活躍の重要性が高まっている。2018年に改定されたコーポレートガバナンス・コードに、取締役会の構成について「ジェンダーや国際性の面を含む多様性」が明記され、同時に金融庁が公表した「投資家と企業の対話ガイドライン」に「取締役として女性が選任されているか」との一文が盛り込まれた。女性活躍、特に女性役員の登用に取り組む企業の姿勢が、資本市場から評価を受ける対象になってきたのである。
こうした社会の流れがある一方、上場企業における女性活躍は道半ばだ。内閣府男女共同参画局の「女性役員情報サイト」によって、有価証券報告書に記載されている上場企業の女性役員数と女性役員比率(2017年4月~2018年3月期決算)を確認すると、全上場企業3697社のうち、女性役員比率が0%、つまり一人も女性役員がいない企業が全体の6割(2385社)にも上り、いまだ上場企業の大多数で女性役員の登用が進んでいないことがわかる。
女性の活躍を進める必要性を感じない企業にとっては、企業経営に何らかのメリットがなければ、その取り組みは進まないであろう。企業自身はどう考えているのだろうか。
日本生産性本部のアンケート調査によると、女性社員の活躍推進に取り組むことによって企業が得られる効果には、「女性社員の仕事意識が高まる」や「ワーク・ライフ・バランスへの取り組みが進む」「組織風土の変化」「優秀な人材を採用できる」「女性社員の離職率が低下する」「コミュニケーションが活性化する」「取引先など社外からのイメージがアップする」等の回答が多いという(「第8回『コア人材としての女性社員育成に関する調査』結果概要」)。
女性活躍の取り組みは、女性の働き方に影響を与えるだけではなく、組織の活性化や企業のイメージアップ、そのことを通じ企業の命運を左右する優秀な人材の確保など、企業の全体に良好な効果を与えることが期待できると認識されている。
しかし実際には女性の登用は進んでいない。なぜなのか。女性社員の絶対数が少ない業種もまだ多く、各企業の現状を肯定した人材戦略に課題がある。管理職から役員に至るキャリア形成において、そもそも女性管理職の育成が不十分だからではないか。
女性役員数、女性役員比率もトップは保険業
では、現状で女性役員比率の高い企業はどのような業種なのか。
業種別に見ると、1社あたりの女性役員数が最も多く、女性役員比率が最も高いのは「保険業」である。「保険業」は企業あたりの女性役員数の平均値が1人を超えている唯一の業種だ。
次いで女性役員比率が高いのは、「石油・石炭製品」であり、「小売業」「銀行業」「水産・農林業」「サービス業」と続く。「石油・石炭製品」は製造業の中では最も女性社員比率が低いのだが、その分を社外からの人材で補っている。保険や銀行と同じ金融セクターであるが、「証券、商品先物取引業」は女性役員比率が低い。