南アルプスの山々などをひとりで散策しているときもそんな気持ちになるという。大学時代には本格的な登山で、猛吹雪により視界が10メートルぐらいの危険な気象条件でも登ったが(2度滑落し九死に一生を得た経験もある)、若い頃のように体が思うように動かない今はそうした100%の力を出し切る攻めの登山ではなく、負荷のかからない「散策」をする。すると、登山時にほとんど気づかなかった雄大な景色や、木々や花の美しさに感動し圧倒されるそうだ。これぞ、まさに「中今」の瞬間だ。

胡蝶蘭の花が咲くとSNSでお披露目(写真提供=矢作さん)。

自然の美しさといえば約3年前から矢作さんは出版記念などで贈られた胡蝶蘭やグズマニアといった南洋系の植物を育てるようになった。

「毎年咲くキレイな花に心打たれます。また花芽が伸びる様子や根の張り方などを観察すると、その生命力に驚かされます。育て方次第で胡蝶蘭は50年と生きるそうです。花に囲まれる生活がこれほど楽しみやエネルギーを与えてくれるなんて思いもしませんでした」

花を育てるという「未知の体験」が人生に彩りを与えてくれる。それは、自分の知らない著者やジャンルの本を敬遠せず、面白がって読んでみることでも獲得できるものだろう。

「多くの書き手の“思想”に触れると教養が積まれます。それは人とのコミュニケーションや仕事で役に立ちます。また、読書は自分が本当に好きなものや得意なものを発見するきっかけにもなります。自分の中に眠る水脈を見つけたようなものです」

矢作さんの事務所の1階はすべて書籍。ここに引っ越す際、医療関係の本や雑誌などを大量に廃棄したが、それでも段ボール280箱分あった。

「ここには医療関係の本はほとんどありません。政治・経済・外交・歴史や自然科学に関するものばかり。読んでいくうちにこの量になりました」

矢作直樹(やはぎ・なおき)
医学博士・東京大学名誉教授
1956年、神奈川県生まれ。81年、金沢大学医学部卒業。その後、麻酔科を皮切りに救急・集中治療、内科、手術部などを経験。2001年より15年間、東京大学医学部附属病院救急部・集中治療部部長を務める。著書には『人は死なない』(バジリコ)、『今を楽しむ ひとりを自由に生きる59の秘訣』(ダイヤモンド社)、『動じないで生きる』(幻冬舎)など多数。
(撮影=堀 隆弘)
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