アマゾンで多用する「スケーラビリティ」
図表2は「大胆なビジョン×高速PDCA」によるアマゾンの成長イメージです。
カギになるのは、ベゾスが口癖のように言っているという「スケーラビリティ」という言葉です。アマゾンでは、事業プランをチェックするときはもちろん、社員のミーティングでもスケーラビリティという言葉が多用されると聞きます。
スケーラビリティとは「拡張性」のことです。目先の利益は大きくても成長の余地が限られ、すぐ天井にぶつかってしまうような事業はスケーラビリティがないといえます。
逆に、スタート時はごく小さな事業であっても、ひとたび軌道に乗ればエキスポネンシャル(指数関数的)に急成長する事業はスケーラビリティがあるということです。
アマゾンはすでに世界でも指折りの大企業に成長を遂げていますが、その中身はいまだにスタートアップ企業的です。新しい事業は、大胆なビジョンを立て、スケーラビリティを重視して決定します。そしてリーンスタートアップ(無駄のない起業)、つまり小さく効率よくスピーディに始めます。その上で高速PDCAを回しながら事業を改善していくわけです。デジタル化された事業は、潜行段階を経ると指数関数的に爆発的な拡大を見せうるという特徴があります。紙の本に対するキンドル・ブックスの成長速度のグラフは好例といえるでしょう。
「創業日」「初日」を意味する「Day1」
アマゾンがスタートアップ企業的であるということを強く示すのは、これもベゾスが繰り返し口にしている「Day1」という言葉です。
「Day1」とは「創業日」や「初日」という意味で、ベゾスのオフィスがある建物はすべて「Day1」という名前がつけられているほか、アマゾンの公式ブログのメインタイトルも「The Amazon Blog: Day One」となっています。ベゾスがどれほど「Day1」にこだわりを持っているのかがうかがえます。
ベゾスは「Day1」という言葉と並べて「Day2」という言葉もよく使います。「Day2」とは、日本語でいえば「大企業病」という意味です。2017年のアマゾンのアニュアルレポートには、「Day2」からアマゾンを守る4つの法則として「本物の顧客志向」「『手続き化』への抵抗」「最新トレンドへの迅速な対応」「高速の意思決定システム」が挙げられています。
ベゾスがこれほどまでに「今日がアマゾンにとって創業日だ」と言い続け、大企業病から逃れようとしているのは、スタートアップ企業的なDNAが消えてしまえば破壊的イノベーションを継続し続けることはできないという強い危機感があるからでしょう。
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。