「60分以内」を謳うアマゾンよりも、早く配達するスーパーが中国にある。アリババグループのスーパー「フーマー」だ。立教大学ビジネススクールの田中道昭教授は「その実力を『ただ早く届けるだけ』と侮ってはいけない」と分析する――。

※本稿は、田中道昭『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)の一部を再編集したものです。

オンラインとオフラインの情報が完全に同期

フーマーでのバリューチェーン×レイヤー構造(画像=『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』より)

リアル店舗についてのアリババの先進性はアマゾン以上といえます。ジャック・マーが2016年に発表した「ニューリテール(新小売)」という概念、オンラインとオフラインの融合(OMO:Online Merges Offline)のシンボルともいえるのが、スーパーマーケットの「フーマー」です。

フーマーでは顧客がリアル店舗で買い物をし、購入した食材をその場で料理人に調理してもらうといった、ユニークなサービスによる楽しみがあるほか、オンラインで買い物をして無料で宅配してもらえるという利便性もあります。

たとえば店頭で購入するものを決めた場合にも、すぐには要らないならフーマーのアプリでQRコードを読み取ってオンラインのカートに入れ、あとで届けてもらうこともできるわけです。まさにオンラインとオフラインの融合です。

オンラインとオフラインの情報が完全に同期しているため、リアル店舗に並ぶ商品とフーマーのアプリ上に表示される商品は完全に一致します。

一方、アリババにとっては、匿名性の高い現金ではなくアリペイでの支払いに特化することで、詳細な購入情報が得られるというメリットがあります。

このフーマーのバリューチェーン構造と、アリババグループ事業のレイヤー構造をまとめたのが図表1です。バリューチェーン構造というのは、商品が調達されてから店舗に入荷し、消費者が購入を検討し、実際に買われて手元に届いてからその後のアフターサービスまでの流れのことです。この図を読み解くと、アリババが先行するOMOにおいて起きていることをより深く理解できます。それは、ただの「新しい小売り」ではないのです。

物流パートナーは「国内は24時間配達」を標榜

まず、事業のレイヤー構造から丁寧に見ていきましょう。

アリババグループの事業を支えているのは、レイヤー構造の最底辺にあるクラウドコンピューティング「アリババ・クラウド」です。アリババグループのすべての事業は、アリババ・クラウドの上で動いています。

物流を担うのは「ツァイニャオネットワーク」。「中国内では24時間以内に必ず配達」「世界の物流会社とパートナーシップを組み、全世界どこでも72時間以内に必ず配達」というミッションを掲げているグループ企業です。

EC企業向けには、物流データの監視や異常が発生した物流案件の処理をし、即時に正確な物流の状況追跡サービスを提供しています。テクノロジーを駆使し、企業の物流情報管理や異常物流の管理に協力して、物流コスト削減や物流サービスレベル向上に寄与しています。フーマーの商品調達時の配送は、ツァイニャオの物流システムの知見が担保しています。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM)

そしてフーマーが取り扱う生鮮食品の品質の担保には、トレーサビリティーに「アリババブロックチェーン」が使われています。フーマーの店頭では商品パッケージと値札にQRコードが添えられており、スマホのアプリで読み取ると詳しい情報を見ることができます。

たとえば肉や野菜なら、産地、収穫日、加工日、店舗までの配送履歴がひと目でわかるのです。過去に多くの食品品質問題が起きた中国において、テクノロジーを活用した徹底的な情報開示は消費者の信頼獲得に大きく貢献しています。これほどのトレーサビリティーの実現は、世界でもあまり例がないかもしれません。