店舗から3キロメートル以内なら30分以内で無料配達

田中 道昭『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)

顧客が購入するときは、繰り返しになりますが、ほぼすべての購入データの取得が可能です。「誰が、いつ、何を」買ったかをすべて正確に記録・分析できるのですから、その意義は従来のPOSデータとは比較になりません。

顧客が店頭での調理を希望すれば、フーマーはその嗜好データも取得しているはずです。こうしたデータはどのように商品を入荷すべきかをより精緻に予測するのに活用できているでしょう。

配達においては、店舗から3キロメートル以内なら30分以内で無料配達する配送網を構築しています。これも配送データの蓄積が可能ですから、今後アリババグループが「ラストワンマイル」の制覇という課題に対してより有効な打ち手を見出していくのに役立つのではないでしょうか。ちなみに日本では、アマゾンが「プライムナウ」で最短60分以内の配達(地域限定、追加料金あり)をしています。

これらすべての流れが実現しているのは、顧客一人ひとりとの関係性を継続的なものにする「カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)」です。

今後はアパレルや家電もデジタルシフトしていく

フーマーを「ニューリテール」「OMOスーパー」のひと言で片付けると、アリババが実現していることを過小評価してしまう可能性があります。おそらくアリババは、フーマーの領域である生鮮食品のみならず、アパレルや家電などの商品に関してもより強力なデジタルトランスフォーメーションを起こしていくことでしょう。

私は、アリババ杭州本社隣の商業施設地下1階にある最新鋭フーマーを訪れ、ニューリテールだけではなくスマートシティ構想全体に占めるフーマーの戦略的な重要性を感じ、脅威を覚えました。シティ全体と強力なコンテンツ部分の両者をデジタルシフトするのがアリババのやり方なのです。

田中 道昭(たなか・みちあき)
立教大学ビジネススクール(大学院ビジネスデザイン研究科)教授
シカゴ大学経営大学院MBA。専門は企業戦略&マーケティング戦略、及びミッション・マネジメント&リーダーシップ。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンクオブアメリカ証券会社ストラクチャードファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任し、現職。主な著書に『アマゾンが描く2022年の世界』『2022年の次世代自動車産業』(以上、PHPビジネス新書)、『GAFA×BATH 米中メガテック企業の競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『アマゾン銀行が誕生する日 2025年の次世代金融シナリオ』(日経BP社)『「ミッション」は武器になる』(NHK出版新書)などがある。
(写真=iStock.com)
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