アリペイ利用歴をもとに信用情報を付与する

フーマーでの支払いはほとんどがアリペイです。アリペイを通じ、フーマーはオンラインだけでなくリアル店舗においても「どの顧客がいつ、どこで、何を買ったか」という詳細なデータを収集できます。そしてアリペイの利用歴などをもとに、個人に信用情報を付与するのが「ジーマクレジット」です。

フーマーではこの情報が顧客の差別化に活用されていると考えられます。そしてフーマーのマーケティングを担うのは、グループ内のマーケティングテクノロジープラットフォーム「アリママ」です。フーマーに商品を提供している企業は、アリママを使って販促を行うことも可能なのです。

アリババのデジタルメディア&エンターテインメント事業の1つである「ヨーク」は、中国最大の動画配信プラットフォームです。フーマーのプロモーションにも、ヨークの動画が使われています。

食品のデリバリーに関しては、アリババが2018年4月に約1兆円で買収したフードデリバリー企業「Ele.me」の存在も気になります。フーマーにおける役割は現在のところ明確ではありませんが、Ele.meが中国で競争が激化している食品デリバリー事業の趨勢を占う上で重要なプレイヤーであることは間違いありません。

2008年設立のEle.meは上海に本拠を置き、中国の2000都市でオペレーションを行い、130万軒のレストラン、2億6000万人のユーザーが登録しています。登録ドライバー数は300万人近くにも達するのです。

2017年時点で、中国の食品デリバリー市場はアリババ、テンセント、バイドゥの3社が競っていましたが、Ele.meの買収により2018年末時点ではアリババグループが過半数のマーケットシェアをとっている状況です。

倉庫がなくても「当日入荷、当日販売」ができる

次にフーマーのバリューチェーン構造を見ていきましょう。フーマーのバリューチェーンは①商品調達、②商品の入荷、③顧客による検討、④顧客による購入、⑤決済、⑥店頭での調理、⑦配達、⑧購入後のアフターサービスという8つの要素に分けて考えることができます。

このバリューチェーンとフーマーの事業レイヤー構造を合わせると、フーマーが実現している「新しい小売り」のビジネスの全貌が見えてきます。

商品調達の段階では、アリババブロックチェーンによりすべての商品においてトレーサビリティーを確保し、生産者のデータを蓄積できます。

入荷する商品は、フーマーのオンライン注文とリアル店舗でのアリペイを使った決済データによりすべての購入データが収集されていますから、それぞれの店舗ごとにコントロールが可能です。フーマーが在庫を置く倉庫をいっさい持たず、「当日入荷、当日販売」を徹底できるのはこのためです。

顧客が商品を検討するときはスマホのアプリで商品情報を見ます。オンラインでは検索データが残りますから、これも顧客のニーズ分析に活用できます。