国会審議の中では、海外の民営化および官民連携で運営される水道事業のうち、「全世界で最近15年間に再公営化された例が180件あった」という報告にも注目が集まった。世界全体で官民連携によって運営されている水道・下水道の件数についての統計はないため、その数が多いのか少ないのかはわかりにくい。ただし私の推計では全世界では数千~数万件に上ると見られるため、そのうちの180件であれば、再公営化されたケースは全体のごく一部と言える。また契約期間が過ぎて公営に戻ったケースも含まれており、すべて問題が生じたことが原因とは言えない。ただ問題が生じた例があることは事実であり、その失敗例から学ぶべきである。コンセッションを導入する際、情報の公開や民間の監督などには十分な対策が必要になるだろう。

海外進出を視野に水メジャーと連携を

もう1つの懸念とされるのが、コンセッションを導入すると、仏ヴェオリア・ウォーターやスエズ・エンバイロメントといった海外の「水メジャー」に日本の水道事業が乗っ取られるのではないか、というものだ。

しかし、国民の生命にかかわる重要なインフラを、海外企業に100%丸投げすることは考えにくい。その意味では、静岡県浜松市の取り組みは1つの参考になるだろう。浜松市は18年4月に下水道事業の一部にコンセッションを導入。現在、仏ヴェオリアと日本のJFEエンジニアリング、オリックスなどで構成するSPC(特別目的会社)が運営している。構成企業が撤退することは市の許可が必要なので通常できないが、複数の企業が参画することで、仮に外資が撤退しても水道事業を維持できるような仕組みとなっている。ただし、日本企業が水メジャーから技術やノウハウを吸収するための年数は必要となる。水メジャーとの共同事業は、Jリーグが外国人選手を招聘して日本サッカーの向上を図ったのに近い。

こうした技術やノウハウの習得は、コンセッションを導入した狙いの1つだと言ってよい。もともと導入されたのは、国内市場が縮小するなかで構想された成長戦略の一環だった。多くの途上国では、水道施設に投資して、さらに運転管理してくれる企業を探している。日本の民間企業の技術を高め、独自のシステムやサービスを開発できれば、将来は海外進出も可能になる。

国内の水道事業が縮小に向かうなか、目を世界に転ずれば、日本のように安全でおいしい水を求めている国や地域は少なくない。日本の水道事業は、世界的な水問題の解決に貢献できるポテンシャルを秘めているのだ。

服部聡之(はっとり・としゆき)
エンビズテック代表コンサルタント
日系大手エンジニアリング会社、民間シンクタンク、外資系水道事業会社などを経て、現在は、途上国の水道開発支援に従事する傍ら、エンビズテック代表として、日系企業の海外進出支援、著述活動などを行う。著書に、『水ビジネスの現状と展望』『水ビジネスの戦略とビジョン』(共に丸善出版)などがある。ペンシルバニア大学経営学修士(MBA)、横浜国立大学工学修士。
(構成=Top Communication 写真=iStock.com)
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