再公営化180件は全体のごく一部

そして18年の法案審議で最大の争点となったのは、「コンセッション」方式を導入することの是非だった。コンセッションとは、官民連携の一形態だ。公共施設などを運営するうえで、公共(官)は施設の「所有権」を保有したまま、「運営権」は民間企業に一定期間、譲渡するというものである。

これまでも水道事業で、民間に設備の運営を委託することはあったが、限定的なものであった。これに対してコンセッションは、民間が独自の運営ノウハウを駆使することができ、効率的な事業運営ができれば、一定の利益を出すことが可能だ。一方、公共は民間の監督・モニタリング責任を負うが、財政を負担することなく、運営権の対価を受けることができる。

コンセッションは、民主党政権下の11年、PFI法(民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律)改正で導入された。すでに関西国際空港・大阪国際空港や愛知県道路公社がこの方式で運営されている。しかし水道事業は「地域独占」という特性があるため、これまでコンセッションを実施する場合には、市町村は水道法上の「水道事業者」としての認可を国に返上したうえで、民間事業者がこれに代わって「水道事業者」の認可を受けなければならなかった。だがそれだと、大規模災害が発生したとき、市町村が対応に直接介入できないなどの問題があった。そこで今回、市町村の水道事業者としての立場を維持したまま、民間事業者に「公共施設等運営権」を設定できるように水道法を改正したのである。

コンセッションを問題視する意見で、よく聞かれるのが「民営化すれば水道料金が高騰する」という予想だ。公共と民間を公正に比較した場合、経営効率が高くコストを抑えられる民間のほうが、運営費用が低くなることは多くの事例で確認されている。だが、地方公共団体が運営する場合、税金を投入できるため、見掛け上、水道料金を低くすることができる。高騰するかどうかはともかくとして、税金による補てんがあるケースで、民間が水道料金だけで運営維持管理費用をすべて回収しようとするなら、税金が投入できなくなる分の値上げは避けられないだろう。

サービス低下についてはどうだろうか。日本では、水道事業の官民連携は1999年のPFI法制定以降、時間をかけて徐々に進められてきた。現在、水道事業については上下水道合計で約600件が官民連携で運営されている。これはコンセッションではなく、民間が限定的な裁量を有する民間委託ではあるが、公共も民間もしっかり機能しており、私が知るかぎり、サービス低下が問題となった例はない。

数値は実績値と推定値。46年後にはピーク時より約4割減少する見込みだ。有収水量とは水道料金徴収の対象となる水量のこと。