社員が大事だから、店で餃子を巻くのをやめた

さて、そうして始まり、成長した王将だったが、渡邊がトップになった頃はそのままでは成長を維持できなくなったため、大きな決断をした。

渡邊がトップになって始めた大きな改革はふたつある。

ひとつは餃子を店舗で“巻く(餃子の餡を皮で包むこと)”のをやめ、工場で成型して各店舗に配送するようにしたことだ。

「店に来てくださったことのある方はわかると思うのですが、平均的な店舗で餃子は一日に1000人前くらい出ます。1人前が6個ですから、店長以下、従業員は営業時間の間、ずーっと餃子を巻いていなくちゃいけない。餃子を巻くのに追われて、他の料理を作ったり接客にあてたりする時間が少なくなってしまった。そのため、餃子を工場で作ることにしました」(渡邊)

餃子を工場で成型することにしたが、冷凍はしていない。すべてチルドで各店舗まで運んでいる。工場で成型するようになってから、従業員の労働時間は2割減と劇的に減っている。

「『企業は人なり』って簡単に言うけど、そんな生やさしいもんじゃないですよ。社員は企業の命ですよ。社員が疲弊したら、いつか会社は悪くなってしまう。わたしは社長になって、もっとも大事なのは社員の皆さんだと思いました。それもあって、店で餃子を巻くのをやめたんです」(同)

餃子を工場で成形するようになり、従業員の労働時間は2割減った(撮影=熊谷武二)

主要な食材を国産にしたらファミリーが増えた

もうひとつの大きな改革は14年の10月、主要な食材をすべて国産にしたことだ。たとえば餃子の場合、豚肉、キャベツ、ニラ、にんにく、生姜、小麦粉を国産に変えた。もともとすべてが海外産だったわけではないが、高いハードルだったのは小麦粉だ。中華麺用の小麦粉(餃子の皮も同じものを使用)の95%は海外産だった。なんといっても国産小麦は量が少ないから、手に入れるのは簡単ではない。そのうえ、価格は輸入小麦のほうが安い。「餃子の王将」のように、大量に使用している中華麺用の小麦粉を国産に変えるのはコストも上がるし、調達の手間もかかる。しかし、渡邊は断行した。

「いらっしゃるお客さまの層が変わりました。『餃子の王将』と言えば学生さん、ビジネスマン、現場の労働者といった方たちが主要な客層なんですが、食材を国産に変えてから、ファミリーの方々が増えました。私がいちばん嬉しかったのは、『“王将の餃子”は安心なので、離乳食にしています』というお母さんからのメッセージでした。そんなこと、以前ならとても考えられなかった」(同)