ほかの動物でいうとたいへんなのはライオンだな。ライオンはメスが狩りをして、立派なたてがみのあるオスは、なんにもしない。オスの仕事は交尾することなんだよね。飲まず食わずで一日に50回も交尾することもあって、ライオンに生まれなくてよかったと思うよ(笑)。それでしばらくすると、若いオス、生殖可能になった子どものオスなんかをぜんぶ群れの外に追い出しちゃう。その後、若いオスはどうするかというと、それまでトップだったオスを倒して、“プライド”という群れを実力で乗っ取る。そのとき追放されたオスは野垂れ死ぬことが多いんだよな。メスは最後までプライドに残って寿命をまっとうするんだけどさ。
群れを追い出された老いたオスは、狩りをする力も落ちているから弱い動物を狙う。一番弱い動物って人間だから「人喰いライオン」ってのは大体老いぼれのオスなんだ。最後は鉄砲で撃たれたりしてね。結局、悲惨だよ。
人間が孤独に弱いのは、要するに、自分がディペンド(依存)しているコミュニティの数が1つしかないから。社会は大きくなっても50~100人のバンドで生きてきた時代とあまり変わらない。たとえば会社の同僚から無視されると、追い詰められる。学校だってそう。ほかの人がかまってくれなくて、周りが楽しそうなのに自分だけが孤立していると人間はかなり弱い。でも、それって狭いコミュニティに囚われているからなんだよね。
思考を切り替えると、孤独はプラスになるよ。だって、孤独なほうが面倒くさい付き合いしなくて済むんだから。会社でも嫌な人と付き合うのはストレスになる。付き合わなくても自分は平気だと思えばいい。別のところでつながりを持てばいいんだ。僕なんて、大学では研究室が隣だった加藤典洋と竹田青嗣くらいしか話さなかった。趣味の虫捕りのコミュニティとか、大学以外のコミュニティがいくつもあったからね。会社で変なやつと思われたって、ほかのグループの仲間と楽しくやっていれば孤独なんて感じないから。
いま若者たちの間で、都会より田舎で自分たちのコミュニティをつくって、しかもいろんな分野を股にかけて生活しようって人が増えているけど、それは正解かもしれないよね。都会はなんでもあるように見えて、結構単純で無味乾燥だから。田舎で農作業とかして自然に触れていると、複眼的な思考を持てて心が広くなる。農業はAI時代になっても役立ちそうだしね。
早稲田大学名誉教授
1947年、東京都生まれ。東京教育大学理学部生物学科卒。東京都立大学大学院理学研究科博士課程単位取得満期退学。専門は、理論生物学と構造主義生物学。フジテレビ系「ホンマでっか!?TV」への出演など、メディアでも活躍。ビートたけしとは同じ小・中学校の出身。