鬼上司になるなら能力と実績が必要

逆にNGでやりがちなのが、あいまいな指示や叱り方だ。「これぐらい、昔は誰でもできていたことだぞ」「そんなこともわからないのか」といった、どこがダメなのかも不明瞭でただ罵倒するような発言だ。

「具体的な指示ができない上司はどこにでもいます。プレゼンの資料のどこをどう作り直せばいいのか、そういった指示も出さずに『やり直せ』『頑張れ』しか言わない。こういう上司がいるとトラブルのもとになります。あとは、大勢の前で叱りつける人ですね。ポジティブな声かけは人前でやると効果が上がりますが、ネガティブな言葉を人前でぶつけるのは百害あって一利なし。特に男性はプライドにこだわる人が多いので、余計に傷ついたり反感を持たれたりします」(小宮氏)

また、「俺が社長に怒られるんだぞ」といった愚痴めいた発言も、部下から嫌われる。「辞めてもいいんだぞ」「評価が下がっても知らないぞ」というような人事権を楯にした脅しや侮辱的な発言はもってのほかだ。

最後に、今は1割しか求められていない「鬼タイプ」の上司について片田氏に聞いてみた。

「鬼タイプはまったく必要ないというわけではありません。どの業界にも、尊敬を集めているけれど厳しいと評判の人っていますよね。それは、その人に対する大きなリスペクトがあるから通用する。能力と実績があるカリスマ的な存在だから許されているんですね。今の時代に鬼上司になるのはそれだけハードルが高いということは肝に銘じておいたほうがいいと思います」(片田氏)

基本は仏タイプでいながらも、明らかな間違いや本人のためにならない思い込みなどについては、言葉をはじめ伝え方に配慮しながら叱る。これが、今の時代に適合した上司像ということになりそうだ。

 
片田珠美
精神科医
大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。パリ第8大学留学。心の病や社会問題を研究。『高学歴モンスター』など著書多数。
 

小宮一慶
1957年生まれ。京都大学法学部卒業後、銀行勤務などを経て、96年に小宮コンサルタンツを設立。『社長の教科書』『ビジネスマンのための「リーダー力」養成講座』など著書多数。