現代日本で真に賢いのは「お笑い芸人」である
こう考えると現代の日本で最も賢いのは大学教授や政治家、官僚、大企業の役員やベンチャー起業家ではないように思われる。たしかに彼らは知的かもしれないが、真に賢い(ストリートスマート)のは「お笑い芸人」だと私は考える。
芸人の多くは学歴を重視しないから知識や情報こそ少なくても、それらを組み合わせて本質を見出し、物語として人に伝え、受け入れてもらう(笑ってもらう)というあらゆる思考ができる。
ビートたけし氏の例はもちろん、芥川賞作家の又吉直樹氏や劇団ひとり氏、バカリズム氏と、さまざまな芸人が漫才・コント・MC・脚本・物語作家・映画監督・役者を器用にこなす。その知性は、図表1に挙げた「つながりを見出す力」であり、「物事をイメージする力」、さらには「ストーリーテリング力」と合致する。
5万人以上と言われるお笑い芸人とその志望者のうち、その1000分の1のわずか50人程度がテレビで活躍する現状を見ると、彼らの優秀さがうかがい知れる。
発明や発見ができるのは「考える」人
20世紀までがハードディスク(情報・知識)主体の時代だったとすれば、21世紀はCPU(思考力・想像力)が主体になる時代である。
これからの時代はハードディスクから解を抜くのではない。問いそのものを問い直す必要があるからだ。問いを問い直すことはたやすいことではない。常に考え続ける必要があるし、流れに逆らうことでもあるから、苦痛な作業である。
ここでフォード社の創業者、ヘンリー・フォード氏の逸話を紹介したい。
あるとき、知識人と呼ばれる人たちがフォード社を訪れた。フォード氏は落ち着いて「皆さん、どのような質問でも良いです。答えてご覧に入れます」と言った。
小学校しか出ていないフォード氏の無知さを晒そうと、知識人が次から次へと質問を浴びせると、フォード氏はおもむろに電話を取り上げて、部下を呼びつけた。そしてそれらの質問にあっさりと答えさせてこう言った。
「私は何か問題が起こったら、非常に優秀な、私よりも頭の良い人を雇い、答えを出させます。そうすれば、自分の頭はすっきりした状態に保つことができますから。そして自分はもっと大事なことに時間を使います。それはたとえば、『考える』ということなのです」
つまりフォード氏の本当のメッセージは、「考えることは過酷な仕事だ。だからそれをやろうとする人がこんなにも少ない」ということだ。
常識に果敢に挑戦し、発明や発見を行う人物に共通するのは「考える」ことであり、決して知識や情報量の多さではない。