リーマンに限らず、外資系投資銀行には、抜群に優秀な社員たちが少なからずいる一方で、能力もなく、常識をわきまえてもいないが、自分が関わっている市場の相場がいいため、1億円を超えるようなボーナスをもらって勘違いしている若手社員もいる。
外資系投資銀行は、儲けた者が勝ち残っていくジャングルのような職場で、正々堂々と戦って実力で勝ち残ってきたライオンもおり、出てきて他人の獲物を横取りするハイエナもおり、たまたま周囲にバナナがたくさんなっていて、労せずして生き残ってきたチンパンジーもいる。これほど人材が千差万別の組織もなく、結局のところ、個々人の力量を見極めて処遇するしかない。
日本では以上のような状況だが、欧州やアジアでは、話がまったく異なっている。欧州でもアジアでも、リーマン社員たちが合流したあとの新組織の幹部の大半はリーマンの社員たちが占め、野村の社員たちは、リーマン社員による面接を受け、処遇を決められている。1、2年のうちには、元々野村にいた社員たちが首を切られてもおかしくない。要は、リーマンの欧州・中東・アジア部門の買収を推し進めた柴田拓美副社長は、海外の野村の社員をリーマンの社員と総入れ替えする決断をしたのである。忠誠心など何の役にも立たない近未来の日本を暗示するような話である。
今回の買収の成否は、今後、リーマンの社員たちが野村に定着するかどうかにかかっている。しかし、投資銀行は結局はネーム(すなわち看板)であり、果たして優秀な社員たちが野村證券という国際的に一流半か二流のネームに留まるだろうか? ケミカル銀行がチェース・マンハッタン銀行を(実質的に)買収したとき、新銀行名はネームのよいチェースにし、新チェースがJPモルガンを(実質的に)買収したとき、投資銀行部門はネームのよいJPモルガンを使うことにした。本気で世界的投資銀行になる気があるなら、日本国内も含めて野村の名を一切捨て、リーマン・ブラザーズに社名変更するべきではなかったか?