投資銀行にはライオンもチンパンジーもいる

「欧州やアジアではリーマン幹部が野村社員の処遇を決めている」<br><strong>作家 黒木 亮</strong>●1957年生まれ。銀行、商社を経て独立。著書に『巨大投資銀行』ほか。自伝的小説『冬の喝采』が好評を博す。
「欧州やアジアではリーマン幹部が野村社員の処遇を決めている」
作家 黒木 亮●1957年生まれ。銀行、商社を経て独立。著書に『巨大投資銀行』ほか。自伝的小説『冬の喝采』が好評を博す。

リーマン・ブラザーズ東京支店にいた約1300人のうち、約1100人が野村證券に転籍した。彼らをどう扱うかは、主として野村證券の問題だが、野村には立派な債券部門や株式部門があるので、よほどできる人間を除いて、早く辞めてもらうのが得策だろう。

M&Aビジネスでは、外国企業が売り手や買い手として絡む大型案件は、米系投資銀行が圧倒的に強い。ただし、それもウォール街に本拠地を持つ伝統あるリーマン・ブラザーズという名前があってのことだ。元リーマンの社員たちが、野村で実績を挙げられるかどうかは未知数で、彼らの処遇は今後の成績次第だろう。

日本人がなぜ外資系投資銀行で働くかというと、報酬が抜群によく、組織の意思決定が速く、日本的なしがらみやしきたりがないからだ。したがって、リーマンで一流の人間は、別の外資に移籍するはずで、緊急避難的にいったん野村にくるとしても、そのまま居残る人間は、精々一流半か二流といっていい。

事実、リーマン東京支店M&A部門の幹部だった柴田優氏は、JPモルガン証券のマネージング・ディレクターになり、同支店の株式部門の社員約100人はバークレイズ・キャピタル証券に転籍した。

今のところ、リーマン東京支店から日系企業に移った社員はほとんどいないようだ。今後、異様なプレッシャーの下で働くのにうんざりしたとか、マネーゲームではなく、もうちょっとまっとうな仕事をしたいという健全な動機で、日系企業に転籍する人々が出てくるかもしれないが、受け入れ企業としては、各人の能力や仕事ぶりを客観的に評価し、ババを掴まないようにするしかないだろう。