しかし当初、有料オプションとして販売したKOMTRAXの販売は低迷した。

ではコマツはどうしたか。KOMTRAXを自社の建機の標準装備とし、建機の販売価格の2%程度となる装備費用は、自社で負担することにしたのである。

販売目標が未達のサービスを自社負担で標準装備する。意外な展開に驚かれるかもしれない。だがこの判断には理由があった。コマツは、販売の失敗の理由を、KOMTRAXを使ったことがない顧客には、その価値が見抜けないからだと考えていた。それなら標準装備にして使ってもらった方がよい。

こうしてコマツのすべての建機にKOMTRAXが装着されることになった。

顧客だけではない。コマツにもまた、やってみると、わかることがあった。KOMTRAXの標準装備後のコマツは、建機の販売後の稼働状況をグローバルに把握できるようになった。そして各国や地域のどこにどのような部品を取りそろえる必要があるかを、高い精度で予測しながら保守サービスを展開できるようになった。

さらに建機の買い換え時期を、より早期に予測することも可能になった。コマツの生産計画の狂いは低下し、生産性が向上した。また、販売後の稼働とメンテナンスの履歴が明確に残るようになったことで、コマツの建機の中古市場での価値も高まった。

当初は失敗かに見えたKOMTRAX。しかし、標準装備に踏み切った後は、さまざまな気づきを得るポジティブ・ループが回り出し、収益上の貢献を果たすようになっていく。

いいワインは「品質が不安定」だから高くなる

フランスをはじめとするヨーロッパには、ファインワインと呼ばれる、伝統的なワインの製法を大切にしたワインのジャンルがある。ロマネ・コンティやドン・ペリも、ファインワインである。

しかしファインワインは、マーケティング上の重大な問題をかかえている。ファインワインは、近代的な大量生産の手法を取り入れてきたカジュアルワインと比べると、流通上の取り扱いが難しい(栗木契「『安いレクサス』を誰も欲しがらない理由」プレジデントオンライン、2017年参照)

フランスなどでは、ファインワインの生産については、産地や格付けごとに使用するブドウの品種はもとより、収穫する畑、栽培方法などが厳格に定められている。ブドウは果実であり、麦や米といった穀物と比べると、収穫は不安定であり、備蓄の難度も高い。さらにファインワインではそこに、先のような畑や栽培方法の制約が加わる。畑によって、そして年ごとに実りの具合は異なるのだ。

したがって同じブランドでも、年によって味わいの変化は避けがたく、生産量も不安定となる。これがファインワインの宿命であり、商品としての安定した品質や供給は望めず、扱いにくい。