後発だった阪急がウリにした「ガラアキ電車」

関西の大手私鉄の一角をなす阪急電鉄。神戸線が開通したのは1920年のことである。当時の沿線の人口は少なく、「ミミズ電車」と揶揄された。人家はまばらで、竹林や田畑が広がる田園地帯を、阪急カラーの小豆色の車体がつらなって走れれば、それはミミズのように見えたかもしれない。そんなミミズが、乗客の数で採算を合わせることは、そもそも難しいと見られていた。

「綺麗で早うて、ガラアキで、眺めの素敵によい涼しい電車」

これは創業者の小林一三氏が自ら書いたという広告文である。「ガラアキ」とは大失敗に開き直った自虐ネタにも見えるが、鹿島茂氏は別の見方を示している(『小林一三』中央公論新社、2018年、p.151)。

沿線の住宅開発の余地が大きいことを見越して、不動産収入を加えて採算を合わせる。このようなビジネスモデルを小林氏は考えていたはずであり、ガラアキ電車には、通勤の快適さを訴求し、分譲住宅地の購入をうながすねらいがあったと見られるのである。

当時の関西において、阪急電鉄は後発の鉄道会社であり、先行する大手事業者を押しのけて条件のよいエリアに参入することは、かなわなかった。しかし、既存の成功企業では失敗の烙印を押されるエリアにおいて、別の発想で収益の道筋を見いだすことができれば、競争戦略のアポリア(困難、行き詰まり)を突破できる。失敗を起点とするからこそ生まれる、後発企業にとっての突破口である。

阪急電鉄神戸線のように、乗客収入にたよる前提だと失敗に見えた事業も、不動産収入などを加えた展開へとビジネスモデルを切り変えれば、収益事業に転じる。

こうした領域は、当初は競合企業が存在しなかったり、参入に出遅れたりすることになりやすく、競争戦略上の利点がある。

「盗難防止用」だったGPSの意外な活用法

コマツもまた、「建設機械用GPS」という誰も購入しないサービスを開発してしまった。しかし、どのような事業活動との組み合わせで収益化するかを見直すことで、間接的な販売拡大への貢献を引き出している。それが2000年にリリースした「KOMTRAX(コムトラックス)」だ。

KOMTRAXとは、GPSを用いた建設機械の稼働管理システムであり、世界のどこに自社の建機があっても、コマツはその所在地と稼働状況を日々把握できる(沼上幹『ゼロからの経営戦略』ミネルヴァ書房、2016年、p.134‐143)。

コマツがKOMTRAXの開発に着手したきっかけは、当時の日本において、建機を盗んでATMを破壊し、現金を奪う事件が多発したことだった。建機が盗まれても、すぐに追跡できるようにすることで、事件を防止できないか。このようにコマツが考えたことから、建機にGPSを付け、位置情報とエンジンの稼働状況を確認できる管理システムが生まれた。