日本のことを考えて北朝鮮と会談したのではない

朝日社説は続ける。

「北朝鮮は表向き、核・ミサイル実験を自制しているが、国連で制裁状況を監視する専門家たちは、いまも開発が続いていると分析している。洋上で違法に物資を積み替える『瀬取り』の通報も絶えない。米国は、これらの追及も心がけるべきだ」

北朝鮮の核・ミサイル開発の自粛が表向きにすぎないことを一番よく知っているのは、アメリカ政府だ。諜報活動や軍事行動によってトランプ氏には詳細な北朝鮮情報が届いている。

そうした情報に基づいてトランプ氏は昨年の米朝首脳会談の際、金氏に「アメリカ本土まで飛ばせる能力を持つ弾道弾ミサイルの開発は許さない」と忠告したはずだ。北朝鮮がミサイルを飛ばさなくなったのは、その忠告が効果を上げたからだろう。トランプ氏は日本のことを考えて金氏と会談したのではない。米国本土を守るために会談したのだ。自国の利益を最優先にする。それが外交の基本である。

朝日社説はこのように続ける。

「韓国政府は、朝鮮戦争の終戦宣言を出すことも、北朝鮮を動かす誘因策になりうると訴えている。確かに、和平の象徴としての宣言で北朝鮮が軟化するならば検討に値するだろう」
「しかし、宣言を大義名分として、在韓米軍などの軍事力の削減や制裁緩和を一方的に求めるようであれば話は違ってくる。どのような交渉になるにせよ、日本や韓国との緊密な調整のうえで取り組むべき問題だ」

「和平の象徴としての朝鮮戦争の終戦宣言」を表だって肯定する姿勢は、朝日社説らしいが、予想される北朝鮮の「在韓米軍の軍事力削減や制裁緩和」の要求に対し、ストレートに釘を刺そうとするところは以前の朝日社説のスタンスとは少しばかり違う。北朝鮮を完全否定する産経新聞の社説の方向に向いている。それだけ北朝鮮の脅威が強いわけだ。

北朝鮮の脅威はなくなっていない

それでは2月7日付の産経新聞の社説(主張)を読んでみよう。

「トランプ氏は、北朝鮮が核実験やミサイル発射を行っていない現状を外交成果として強調し、『私が大統領に選ばれていなければ本格的な戦争になっていただろう』とも述べた」
「軍事力を含む米国の強い圧力が北朝鮮に危険な挑発をやめさせ、金氏を交渉のテーブルに着かせたことは事実である。だがそれは、初の米朝会談があった昨年6月の状況だ」
「問題はその後である。非核化へ向けた具体的な進展はなく、北朝鮮は核や弾道ミサイルを保有したままで、脅威は減じていない」

脅威はなくなっていないのだ。だれもが分かっていることだと思うが、「私が大統領になっていなければ戦争になっていた」というトリッキーな発言にだまされ、ついトランプ氏を信じてしまう。日本としては2回目の金氏との会談で、トランプ氏の一挙一動に目を離さず、彼の口から発せられる流暢な言葉に気をつけなければならない。もちろん金氏の動きと言葉にも注意をはらいたい。