【田原】アメリカのスポーツビジネスの仕組みは優れているんですか?

【葦原】野球では93年当時、日本もアメリカも市場規模は約1500億円で同じでした。球団数はアメリカのほうが多いので、1球団当たりの売り上げは日本のほうが多かったくらいです。ところがいまは、日本はほぼ横ばい、アメリカは7倍になって1兆円規模になりました。ダルビッシュやマー君、大谷がアメリカに流出したのも、売り上げが非常に伸びて選手に高い年俸を払えるようになったから。ただ、興味深いことにメジャーの観客動員数は伸びておらず、この20年では減っています。

【田原】お客が減るのに売り上げが伸びてる?

【葦原】そこがポイントです。彼らがこの20年で何をやったかというと、リーグによる統制です。たとえば以前は各球団がバラバラに放映権を売っていましたが、いまはリーグがまとめて売る。まとまると買い手は1人に限られるので、競争の原理が生まれて高く売ることができます。コストも同様です。各球団がサイトをつくるより、まとめたほうが安くなるし、お客さんも便利です。

【田原】なるほどね。大リーグがそれで成功しているのに、日本は真似しようとしなかったんですか?

【葦原】たとえばヤンキースは非常に儲かっていた球団ですが、業界を最適化するために権利を手放しました。でも、日本は儲かっている球団が権益を手放そうとしない。なかなか足並みがそろわないですね。

【田原】わかった。つまり巨人のナベツネが日本のプロ野球をダメにしたわけね(笑)。

【葦原】えーっと、私の口からはそこまでは……。とりあえず、よくも悪くも歴史的に球団の力が強すぎて、個別最適から全体最適に向かわないところが問題だと言っておきます。

【田原】バスケットは川淵さんの剛腕で権益をリーグに集中させて、売り上げ10倍以上になった。ひとまず成功ですね。

【葦原】Bリーグを知っているという人は、当初40%でした。それがいまは60%まで上がっています。ただ、野球やサッカーは80%以上。私たちも次のステージに行きたいと考えています。

【田原】Bリーグは軌道に乗って稼げるようになった。これから先はどのような世界を目指しますか?

【葦原】スポーツを観戦する人にはスポーツをやってほしいし、スポーツをやっている人もプロのプレーを見に来てほしい。この循環をつくることが一番大事だと思っています。実はマーケティング論でいうと、競技者と観客は必ずしも重なっていなくて、ターゲティングは別々にやったほうがいいんです。実際、球場に行って応援している人たちを見ても、野球部出身者はそれほど多くない。ただ、日本のスポーツの普及を考えたときに、そうしたマーケティング論でいいのかと。