アプリにも注力するニトリ

端末自体にも改良の余地は大きい。そもそも店内には、前述のスキャナー付きのタブレット端末と、アウトレット商品の検索とデジタルカタログ(商品一覧)を閲覧のみできる端末の2種が置かれており、それぞれでまったく使い方が異なっている。後者の端末は画面上にパソコンのブラウザで見たときと同じ画面が表示されるが、そこから検索や購入はできない。画面上部には、以下のような文言が表示されている。

「こちらからは商品購入をすることができません。ご希望の商品がございましたら、お近くの係員までお問い合わせください。操作は画面タッチのみです。検索バーはご使用できません。ご了承ください。」

とはいえ、ニトリのスマホアプリはよくできており、「手ぶらdeショッピング」という機能を使えば、欲しい商品のバーコードをスキャンしてそのままネットショップで購入することができる。店頭の端末の使い方にはまだ改善の余地があるが、リアル店舗とネットの融合という点ではイケアの何歩先もいっている。

原宿出店で新たな客層の獲得が見込める

イケアは現在、世界的にECサイトへの取り組みを強化している。その結果、イケア・ジャパンの売上高は4年ぶりに増収へ転じた。イケアは国内に9店舗しかなく、ニトリの467店舗(18年2月20日現在)と比べると圧倒的に少ない。そのぶん、イケアの商品に実際に触れたことのある客も当然少ない。2020年の原宿出店により、初めてイケアを訪れる人が増えれば、新たな客層の獲得が望めるだろう。

イケアとニトリは、同じ家具や生活用品を扱うSPA小売ではあるが、商品ラインナップからして顧客の嗜好は明らかに異なっている。今のところはただのカタログにすぎないスマホアプリも、ECへの注力の結果として、その頃には改良されていることが期待できる。

平成の小売業界は、郊外型店舗全盛期だった。だが、それは終焉を迎えつつある。ユニクロはもとより、ホームセンターのカインズホームやおもちゃ量販店のトイザらスといった、郊外型店舗で知られる企業もこぞって都市部に小規模店舗の出店を推し進めている。「買い物=車」という時代は終わり、近場の店とネット通販を活用したスタイルがますます広がっていきそうだ。

ネット通販の広がりで、顧客のニーズは多様化した。顧客のニーズを満たせるだけの商品をすべて店頭に置くことは不可能で、小売店舗では今後ますますショールーミングへの対策が必要になっていく。ニトリのように購買行動をスムーズにする環境の整備や、店頭で購入すると“お得感”を得られるサービスが求められるだろう。

渡辺 広明(わたなべ・ひろあき)
流通アナリスト・コンビニ評論家
1967年、静岡県生まれ。東洋大学法学部卒業。ローソンに22年間勤務し、店長やバイヤーを経験。現在はTBCグループで商品営業開発に携わりながら、流通分野の専門家として活動している。『ホンマでっか!? TV』(フジテレビ)レギュラーほか、ニュース番組・ワイドショー・新聞・週刊誌などのコメント、コンサルティング・講演などで幅広く活動中。
(写真=iStock.com 撮影=プレジデントオンライン編集部)
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