企業においては個人的な喜びの確保も大切である

私は今の人材マネジメントに必要なのは、個別人事を通して、働く人に、見守られているという感覚を呼び起こすことではないかと思っている。

多くの人は、会社とは会社のロジックを追求する生き物であることは理解している。それでも経営が、成果や能力評価だけで人を判断するのではなく、自分の希望や適性をどこまで考慮しようとしてくれているか。その努力の姿勢があることで、見守られている感覚をもつのである。こういう人事を受けた人は、それが長期的な意欲の源泉となる可能性が高い。

強調するが、このことは、働く人のことだけを考える、ということではない。働く人を大切にするということは、あくまでも企業経営の中で、人材として大切にするということであり、その人材を経営の中でどう効果的に活用するかという視点が不可欠なのである。

また、育成という視点で言えば、基本は、企業のためにその人をどう育てるかを常に考えつつ、同時にその人が望む成長やキャリアプランに対して一定の尊敬の念をもつことなのである。こうした考え方が個別人事の中核である。両者がないと、個別人事ではあっても、経営機能として成立しない。多くの企業がかつて行っていたこうした個別人事の努力が、衰退したり、一部の人に限定され始めたように思う。

ポイントは、選抜された少数だけに限り、それ以外の人と境界線を引き、少数の人材について、個別人事を行うのではなく、どれだけ多くの人材について、個別人事を行い、見守られているという感覚を与えるかなのである。働く人の活性化のために求められるのは、個別人事の発想からの人材マネジメントだといえよう。そしてこうした作業の根底には、人材としての尊重がある。英語で言えば、リスペクトだから、敬意といってもいいかもしれない。

言葉は難しいが、内容はシンプルである。なぜならば、人材には、経営のために存在する側面と、働く人のために存在する側面が、ともにあることを認識し、それに基づいて人材マネジメントを行うことが、人材の尊重だからだ。別の言い方をすれば、一人ひとりを単なる人的資源として活用しつつも、人として敬意を払い、そこを出発点として、企業の業績や成長と、その人の意欲や成長をどう両立させていけるかを考える姿勢が人材の尊重である。

もちろん、経営体として働く人の視点と経営の方針がバランスしない場面も皆無ではないだろう。しかし、そうした状況は極限的である。また働く人の多くは、そうした状況があることも理解している。とはいえ平時であれば、また戦時であっても、多くの場面で、働く人の喜びと経営目標の達成を両方追求することが可能なのである。

多くの人にとって、企業というのは、人生の多くの時間を過ごす場である。したがって、確かに経営に貢献することも大切だが、達成感、成長、満足感など、個人的な喜びを確保することも大切である。また、ワークとライフがバランスすることも大切だ。

可能な限り、人の視点と経営の視点をバランスさせ、そのうえで人材マネジメントを行う。これがあって初めて人材マネジメントは、働く人を勇気づける個別人事になる。個別人事の基盤は、あくまでも人材の尊重なのである。今、働きがいやワークライフバランスなどが頻繁に話題にのぼる根底には、多くの企業での、こうした努力の衰退や、選抜された一部の人材への限定が見られる気がしてならない。

あなたが働く企業はどうだろうか。

(平良 徹=図版作成)