一緒にみじめな思いをした共有体験

【田中】喧嘩しても、「コンビ解散だ!」ということにはならなかったんですか?

【山田】それはなかったですね。

【田中】それって結構、貴重なことですよ。一般的に、うわべだけの友達関係は多いですし、一度喧嘩してしまうと取り返しがつかない、ということになりがちですから。

【山田】そこは、売れない時期、つまり昔と今ですが、一緒にみじめな思いをした共有体験があるからでしょうね。

【田中】そういう意味では、ひぐち君と出会えたのはラッキーでしたか?

【山田】引きこもりで上京してきて、ほぼホームレスみたいな生活をしているさなかにひぐち君と出会い、「お笑いをやめたらもう死ぬくらいしか人生の選択肢がない」という後がない状況で始めた芸人稼業だったので、状況的に解散できなかった。それもラッキーだったかもしれないですね。普通は、離れよう、会わんとこうと思ったらすぐ離れられる関係がほとんどですから。

友達関係にも“分相応”がある

【田中】男爵の話を聞いていると、いい関係だなと思いますが、だからといって、僕が40歳を過ぎた今からひぐち君のような友達を作ろうとするのは、難しいかもしれませんね。

【山田】もちろん人にもよりますけど、40歳からソウルメイトと呼べるような親友を作るのは、40歳から飛行機のパイロットを目指すのと同じくらいの難易度だと思いますよ。

【田中】何歳からでも遅くない……と思いたいですけどね。

【山田】ただ、僕思うんですけど、「本気の喧嘩ができる相手こそ真の友達だ」みたいな風潮ってあるじゃないですか。でも、それって『少年ジャンプ』とかが推奨してきた、めちゃくちゃハードルの高い友達像だと思うんですよ。殴り合っても最後は夕陽をバックに握手する……というのは、確かにぶっとい絆かもしれないですが、そんな友達関係をキープするにはよっぽどの技術が必要ですよ。そんな技術もないのに、みんながそこを目指すからしんどくなるんじゃないですかね。

【田中】それは、中年男性に対して、とてもいいアドバイスになると思います。

【山田】将来の目標だって、自分の才能やキャパシティに見合わないことを、いつまでも夢見て目指していたらしんどくなるでしょう。それと同じで、友達関係にも“分相応”のものがあると思うんです。

【田中】無理して青春時代のような親友を作ろうとする必要はないんですよね。今の自分に必要な温度感の友達を、今の自分にできるやり方で作ればいいと思います。

田中俊之(たなか・としゆき)
社会学者
1975年生まれ。博士(社会学)。武蔵大学人文学部社会学科卒業、同大学大学院博士課程単位取得退学。大正大学心理社会学部人間科学科准教授。社会学・男性学・キャリア教育論を主な研究分野とする。男性学の視点から男性の生き方の見直しをすすめる論客として、各メディアで活躍中。
山田ルイ53世
お笑い芸人
本名・山田順三。1975年生まれ。お笑いコンビ・髭男爵のツッコミ担当。地元名門中学に進学するも、引きこもりになる。大検合格を経て愛媛大学入学、その後中退し上京、芸人の道へ。雑誌連載「一発屋芸人列伝」で第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞「作品賞」を受賞。同連載をまとめた単行本『一発屋芸人列伝』(新潮社)がベストセラーに。
(写真=iStock.com)
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