ひぐち君は“相方”というより“友達”

【田中】「コミュニケーション能力を高めて、いろいろな場に出て行きましょう」と言われても、「いやいや、そんなことできないよ」という人もいますよね。男爵に共感する男性は、多いと思います。

【山田】考えてみたら僕、そういう女子会的な他愛ない会話を、相方のひぐち君とならできるんですよ。彼と真剣に仕事の戦略とかを話せる気はしないけど、道端で座って二時間世間話するなら全然できます。だから僕にとって、ひぐち君は“相方”というよりも“友達”なんです。芸人としては破綻してますけどね(笑)。

【田中】でも、男爵とひぐち君の関係性は、「利害関係を超えて付き合える仲間」という意味で、とても理想的だと僕は思います。中年男性に、一番足りない関係なんじゃないでしょうか。

【山田】たとえば、関東近郊の営業の仕事に行くとき、ひぐち君は僕の家まで車で迎えに来てくれるんですよ。頼んでもないのに。まあ、それは15分の出番で55秒しかしゃべらないという罪悪感がそうさせてるんだと思いますけど(笑)。彼が運転する車で、僕が助手席に座って、片道二時間、往復四時間みたいな道中でも、お互い別に苦痛じゃない。「石原さとみって、いいよなー」みたいなしょうもない雑談をずっとしていられるんです(笑)。

【田中】それは、小学生や中学生のときのような友達関係に近いですね。

お互い諦めてから関係が良くなった

【山田】ただ、コンビを組んだ当初は、彼のほうはもっとサバサバした関係を望んでいた気がします。普段はお互いの電話番号も知らないくらい疎遠なんだけど、現場ではプロの仕事で爆笑をかっさらって帰っていく……みたいな。そういうダウンタウンさんみたいな感じに憧れて、形から入ろうと斜に構えていた時期があって。すごくやりづらかった(笑)。

【田中】ひぐち君が斜に構えなくなって、今の関係を受け入れるようになったきっかけは何かあったんですか?

【山田】ネタを書けないとか、己の力のなさを知ってからでしょう。僕が言うとどうしても感じ悪くなってしまうのは百も承知ですが、事実です(笑)。彼は、ネタの稽古を「そんなせなあかん?」というくらいするんです。もうネタの味がしなくなって、ゲシュタルト崩壊を起こすくらい練習するのに、それでも本番の第一声で噛んだり、セリフを忘れたりする。そのたびに「どういうことやねん!」と喧嘩になってたんですけど、だんだん言ってもしょうがないな、向いてないんやなと思うようになって、最近は何も言わなくなりました(笑)。