【田原】管制官は、どれくらいやっていたの?

義父が遺した軽貨物ドライバーの労働環境を改善する新サービスの企画書。この内容をベースにプログラミングを始めた。

【松本】大学校2年間で、羽田空港4年半で、計6年半です。

【田原】憧れの空の仕事に就いた。それなのに運送業界に転身される。経緯を教えてください。

【松本】きっかけは妻との出会いです。義理の父が運送会社を経営していて、業界の構造的問題に心を痛めていました。その話を聞いて、またプログラミングで解決することができるんじゃないかと。

【田原】業界の問題って何ですか?

【松本】義理の父は、もともと車の販売と整備をする会社を神奈川で経営していました。約20年前、食品メーカーの依頼で温度管理ができる軽自動車をつくった。これがドライバーにものすごく売れたそうです。ただ、定期点検などの機会にドライバーと話をすると、みんな大変な思いをしている。義理の父は業界をもっとドライバー視点に変えていかなきゃいけないと感じて、運送会社を始めました。

【田原】よくわからない。ドライバー視点じゃないって、どういうことですか?

【松本】まず業界の概要から説明させてください。運送というと、一般の方はヤマト運輸や佐川急便に代表される宅配をイメージするかもしれません。しかし、BtoCの宅配よりBtoBの企業間配送のほうがマーケットは5~6倍大きい。この領域を担っているのが約6万社の運送会社。ほとんどは中小の会社です。そして実際に荷物を運ぶのは個人事業主のドライバー。そのドライバーは運送会社に属しているわけではなく、業務委託で荷物を運びます。このドライバーが全国で約20万人、車両は約23万台。義理の父の車両を買っていたのも、個人事業主のドライバーたちです。

【田原】ヤマトや佐川のドライバーもそうなんですか?

【松本】佐川は佐川の制服を着ていてもほとんど個人事業主です。どちらかというとヤマトは社員の方が多いですね。

【田原】なるほど。それで?

【松本】企業間配送では、荷主が運送会社、運送会社がドライバーに電話で配送の依頼をします。電話を受けた運送会社やドライバーは、基本的に依頼を断りません。1度断ると次は後回しにされて、しまいにはかかってこなくなる可能性があるからです。とはいえ、ドライバーは体が空いていないと自分で運べない。そこでドライバーは友達のドライバーに仕事を投げます。その結果、多重構造が生まれてしまう。最終的に荷物を運んだのは7次受けのドライバーだった、というケースが珍しくない世界なのです。

【田原】でも、どの業界にも中間業者がいて、多重構造になっていますよ。

【松本】たしかにいろいろな業界に多重構造があるでしょう。ただ、それぞれの階層で何か1つは役割があるはずです。ところが、運送業界は階層に何も役割がなく、電話してつないだだけで10%中抜きされてしまう。