病気、介護、お金、片付け、空き家、お墓……。「実家」のさまざまな問題を解決するにはどうすればいいのか。「プレジデント」(2017年9月4日号)の特集から処方箋を紹介する。第3回は「事件・損害賠償リスク」について――。

踏切事故に遭ったら「賠償額」の相場は?

高齢の親が事件・事故の当事者になったら家族の負担はどうなるか。主に損害賠償責任の面から考えてみたい。

写真=iStock.com/palinchakjr

2007年、愛知県大府市の91歳の男性が踏切内で列車にはねられ死亡した。男性は認知症を患っており、徘徊中の出来事だった。

踏切事故ではほとんどの場合、損害賠償責任は事故の当事者である本人にある。本人が亡くなっていれば、その債務は遺族が相続することになる。ただ、その額が資産に比べて過大であれば、相続放棄をすることで遺族は相続した賠償責任を免れることができる。が、それでひと安心とはならない。

大府市の事故で、鉄道会社は家族に約720万円の損害賠償を求める訴訟を起こした。ここで問題になったのが家族の監督責任。介護をしていた人は男性が認知症であることを知っており、事故を起こす予想ができたにもかかわらず阻止しなかった点で過失があるとされ、家族の責任が問われたのだ。

本件は最高裁まで争われ、16年3月、同居の妻と別居の長男は監督義務者にあたらず、賠償責任はないという判決が出た。認知症患者は家族がちょっと目を離した隙に出歩いてしまう。それゆえ監督責任が相当強い人でないと責任を問われないという判断だった。

ところで、請求額約720万円の根拠は何か。この額は鉄道会社が勝手に決めたのではなく、実損に基づいている。実損とは事故で列車が汚れた清掃費用、壊れた修理費、何時間も列車が止まったことによる逸失利益(損害額)を合計したものだ。この事故はローカル線で起きたため、便数や乗客数が都会の路線と比べて少なく、鉄道事故にしては少額の720万円で収まったといえる。もし東京の山手線など繁忙路線を何時間も止めてしまったら、損害額は数千万円単位になったと推定できる。