部下の忘れ物は、上司の責任

相手の幸せを自分の幸せだと感じられるようになると、チームの雰囲気も良くなります。そこで加えて重要なポイントになるのが、相手を尊重することです。そしてそのうえで、「自責」の気持ちを持つことです。自責とは、読んで字のごとく、「自分に責任があると考える」ことです。

鈴木颯人『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』(KADOKAWA)

思うようにいかないことがあると、つい周りのメンバーや環境のせいにしたくなると思います。誰かのせいにすること(他責)は、自分が傷つかずに済む方法、自分を守る方法です。その思考に逃げ込みたいのをグッと我慢して、「何か自分にできることはなかったか」と問いかけるようにしてみてください。

他責の習慣がついてしまっていると、すべての原因を環境やメンバーに押し付けがちです。押し付けられたメンバーは当然、いい気がしません。これでは信頼関係を築くなど夢のまた夢。たとえ相手に原因があるとわかっていても、相手を尊重して自責する。つまり、「自分にできることはなかったか」と、一度振り返るようにするのです。

もちろん、自分にまったく非がないこともあるでしょう。それでも、「自分は悪くない、関係ない」とすぐに決めつけるのではなく、一度自分に問いかけることで、「もっとこうしていたら違う結果になっていたかもしれないな」と、新たな側面で物事を捉えるきっかけになります。それができれば、また同じような失敗が起こることをふせいだり、経験を次に生かしたりすることもできるようになるのです。

試合当日にユニフォームを忘れる選手もいる

たとえば大事なアポイントの日に、メンバーが資料を忘れてきてしまったとします。前日にあなたが声をかけ、「忘れないでね」と念押ししていたのにもかかわらず、です。この場合、ミスをしたのはメンバー、ということになると思います。あなたなら、ここでメンバーにどんな態度をとるでしょうか?

資料を忘れたことを責めても、結果は変わりません。そこであえて「自分にも何かできることはなかったか」と考えるようにするのです。そうすると、「声かけだけでなく、確認のメールを送る方法があった」「万が一のために、自分も同じものを用意しておけば安心だった」「持ち物のチェックリストをつくって、事前にチェックしてもらうようにすれば良かった」など、次に向けた対応策を思いつくはずです。

実際、私が担当しているアスリートの中には、試合当日にユニフォームを忘れる人もいます。その物忘れを相手の問題だと思えば何も変わりませんが、自分の問題でもあると考えると、伝え方や行動が変わってきます。こういったケースで私は、試合の持ち物のチェックリストをあらかじめ渡しておき、毎回チェックしてもらうようにしています。

相手を尊重し、自責することは、リーダー自身の成長につながり、メンバーからの信頼も高まる、一石二鳥の思考法です。メンバーのミスを指摘する前に、まずは自分の行動を見直し、己を成長させていきましょう。二流のリーダーは「他責」で叱り、責任を追及することで相手を成長させようとしますが、一流のリーダーは「自責」で自分自身を成長させることにより、部下の成長を促すのです。

鈴木颯人(すずき・はやと)
スポーツメンタルコーチ
1983年、イギリス生まれの東京育ち。Re‐Departure合同会社代表社員。サッカー、水泳、柔道、サーフィン、競輪、卓球など、競技・プロアマ・有名無名を問わず、多くのアスリートのモチベーションを引き出すコーチングを行っている。
(写真=iStock.com)
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