取引先での打ち合わせ当日。現地で待ち合わせた部下から、「あのう、すみません、資料忘れちゃって」と言われた。あなたは前日に「資料忘れないでね」と念を押したはずだった。なぜ忘れてしまうのか。この怒りをどうすればいいのか。スポーツメンタルコーチの鈴木颯人氏は「怒る相手がいるとすれば、それはあなた(上司)自身」という。どういうことなのか――。

※本稿は、鈴木颯人『モチベーションを劇的に引き出す究極のメンタルコーチ術』(KADOKAWA)を再編集したものです。

※写真はイメージです(写真=iStock.com/LightFieldStudios)

メンタルコーチの仕事についての大きな誤解

「メンバーが思うように動いてくれない」。これは、多くのリーダーにとって普遍的な悩みでしょう。では、どうすれば部下自らモチベーションをもって動いてくれるようになるのでしょうか。実はこれは、あなたがメンバーに対し「どんなふうになってほしいと思っているか」によって大きく変わります。

スポーツメンタルコーチである私の仕事の目的はなんだと思いますか。「アスリートに成果を出してもらうこと」だと思っている人が多いと思います。実際、ご依頼くださるアスリートやその親御さんは、そのつもりでいると思います。

しかし私は、担当しているアスリートに結果を出してもらうことを目的にコーチングを行っているわけではありません。目的にしているのは、クライアントのみなさんに「幸せな人生を送ってもらうこと」です。「結果を出すこと」は、クライアントが幸せな人生を送ることの中に含まれる、と認識しているのです。

「結果」に固執するリーダーは失敗する

アスリートの場合、まず「幸せになる」という人生の目的があって、それを達成するために「金メダルを取る」とか「アジア選手権で優勝する」といった目標を掲げます。「金メダルを取ること」そのものを人生の目的にしてしまうと、その目標を達成した瞬間に目的がなくなり、その人が“生ける屍”になってしまいます。

目標を達成できなかった場合も同様で、金メダルを取らないかぎり、その人は一生、幸せになれないことになってしまいます。

アスリートに幸せになってもらうのが目的であるため、コーチングを行う過程で、競技に集中することがそのアスリートの幸せにつながらないと気づいた場合、あえて引退後のプランにフォーカスするケースもあります。

リーダーが「結果」に固執していると、メンバーの幸せは大方度外視されます。私なら、コーチングの目的そのものが「自分の評価を上げること」となり、「どうすれば結果が出るか」ばかり考えるようになります。そのような、相手の幸せを考えない人のために、周りが頑張ろうと思えるでしょうか? 信頼関係を築くという観点から見ても明らかにNGでしょう。