日本においても、戦後復興期、高度成長期、石油危機の克服の過程を経て、80年代後半のバブル経済期に至るまでは、勤勉、努力、誠実、真面目など日本古来の徳目が経営者や労働者の間に受け継がれてきた。そのことが世界に冠たるハイテク製造業を育てる原動力となった。彼らは近代資本主義の精神の持ち主であったのだ。

しかし、87年から90年のバブル経済期に入ると、近代資本主義の精神はカジノ資本主義の精神に変質する。汗水垂らして働くことがさげすまれ、頭を使って金儲けすることが尊ばれた。かつての日本の徳目は全否定されてしまった。バブル崩壊後、日本経済が底這い状況にある最大の理由は、近代資本主義の精神を失ったことにある。

では、日本と同じように欧米の資本主義社会でもウェーバーの指摘したプロテスタンティズムの倫理は根絶してしまったのか。その答えは「否」である。

マイクロソフトのビル・ゲイツ氏は、私財を投入して2000年に夫人と連名の慈善団体を設立。その運用資産は世界最大の290億ドルに上った。さらに06年には著名な投資家ウォーレン・バフェット氏が同団体に300億ドルもの寄付を行った。カーネギー、ロックフェラーらに見られる社会貢献を果たす倫理観は着実に受け継がれている。

「100年に一度の津波」を受け、日本経済の先行きが危ぶまれている。しかし、若者が努力せず勤勉でない国の経済が成長するはずはない。景気対策も大切だが、マックス・ウェーバーの教えを紐解き、かつて共有していた近代資本主義の精神を取り戻すことが先決だろう。

(構成=伊藤博之)