「中国人が日本の“水”を狙っている」……大国に変貌した隣国の住人。彼らへの潜在的な恐怖で噂は噂を呼ぶ。しかし、森林を狙う目的はほかにあるようだ。
「日本の水を狙って中国資本が山林を買い漁っている」――昨年あたりから大手メディアで度々、この話が出回っている。ネットでも夥しい数のサイトで同じ情報が氾濫している。
「先進国ニッポン」の誇りとナショナリズム、中国に対する脅威と不安が入り交じるなか、噂が噂を呼び、それが再び大手メディア報道へと還流して、情報はいまなお拡大再生産中だ。
しかし、この件を報じた大手メディア情報をいくら反芻しても、「水を目的とした山林買収」の具体例は見当たらない。報じられたもののすべては伝聞に終始しており、「実は水狙いらしい」との憶測を傍証する具体的事実は皆無なのだ。
考えていなかった「水の防衛」
中国人と中国資本による“日本買い”は、周知のように驚くべき規模と広がりで進んでいる。老舗デパート、温泉ホテル、高級リゾート、IT企業、防衛産業……。中国人観光客を乗せた買い物ツアーのバスが連日のように乗りつける東京の家電量販店では、有楽町でも秋葉原でも、店頭スタッフからは似たようなコメントが返ってくる。
「日に数回、30人乗りの観光バスで団体さんが到着します」「デジカメや炊飯器の購入が多いですね」「デジカメは10万円前後の価格帯。30~50台を一人で買っていく人も珍しくありません。ほとんど現金です。3分の1から半分くらいのお客さんがそんな調子です(笑)」
10万円のデジカメを10人が30台買えば3000万円。不況の真っ只中、家電量販店にとっては信じられないような救いの来訪者だ。北海道のある不動産業者は、リゾート物件を購入する中年の中国人婦人から5000万~6000万円のキャッシュを目の前に差し出されて息を呑んだという。実際、現在の「中国の日本買い」は、かつて日本企業が海外で誇示した経済力の記憶を蘇らせる。
一方、深刻な水不足解消を目的とする日本の技術視察にも余念がない。大陸の玄関口としての歴史が長い福岡市には、多くの中国人観光客が訪れる。
福岡市は戦後、1947年、78~79年、94~95年と3度の渇水に見舞われた。市内北部にある「海の中道奈多海水淡水化センター」には、玄界灘の海水を淡水化して最大日量5万トンの真水を生産する国内最大級の“真水生産工場”がある。同センターは、供給エリアである福岡都市圏にとって、いつ生じるかわからない水危機に対する“保険”でもある。
「施設見学に訪れる外国人で最も多いのが、中国と韓国からの視察です」(守田幸雄所長)
施設見学で訪れた中国人は、施設が稼働開始した2005年度は59人、09年度は180人と4年間で3倍に増えた。
怒濤のように押し寄せる中国の“日本買い”。そして、水不足解消のために本腰が入れられる技術視察。いずれ水ビジネスの“蛇口”を押さえようと考えれば当然、日本の水事情についての研究も進むに違いない。