大学による起業家育成、成功する要件とは

起業家が増える流れとして、もうひとつ期待できるのが、大学の研究開発からベンチャービジネスが生まれるR&D型起業だ。なかでも東大と京大は、大学の研究開発をビジネス化するためのベンチャー支援に力を入れており、大学が出資・設立したベンチャーキャピタルでも積極的な投資を行う。これらの取り組みが功を奏し、大学院生が自分の研究をもとに起業するケースが実際に増えている。今回は卒業学部のランキングだが、東大は院卒のマザーズ上場企業家が10人を超えるなど、R&D型起業が増えていることにも大きく影響している。

「本来は研究者タイプだった人が、そのテーマを突き詰めた結果、『この技術をほかのことに転換できるのではないか』と気づいて起業する。いわゆるテクノロジードリブン型の起業も、今後はもっと増えるはずです」(北野氏)

理工系からのスタートアップ事例が増えれば、後に続く学生が増える可能性は大いにあるだろう。

AIやIoT時代の到来を迎え、スタートアップにおけるテクノロジーの重要性はますます高まると予想される。西立野氏によれば、スタートアップ業界はネット検索・通販やスマホ・SNSを核にした2度のバブルを経て、競争環境が大きく変化しているという。「IoTですべてのモノが繋がり、AIで制御されるようになると、自動運転に代表されるように提供価値がモノからコトに変わる。IoT・AI革命は金融・医療・教育・エネルギー・食料などあらゆる基幹産業のシステムに再構築を迫り、業界地図を塗り替えていく。こうした競争を勝ち抜くためには、大企業とスタートアップが枠を越えて協働し、旧来の工学分野と情報工学を掛け合わせていくことが不可欠なのです」

さらに西立野氏は、産業と人づくりの起点としての大学教育のあり方にもこう提言する。

「日本の大学の構造は、高度成長期に『20世紀のものづくり』を出口として組み上げられたまま50年近くほとんど変わっていません。大学は『なんでもいいからスタートアップしろ』と煽るのでなく、今こそAIとIoTという新たな産業の出口に向けて、データサイエンスやスタートアップを核として学部学科を抜本的に再構築すべき時期に来ていると考えます。今後5年から10年が正念場でしょう」

各大学における起業家教育はようやく緒に就いたばかりだが、残された猶予は決して長くない。今後その成果がどれだけ見えてくるのか注視していきたい。

北野唯我
ワンキャリア執行役員
神戸大学経営学部卒。博報堂、BCGを経て、2016年より現職。著書に『転職の思考法』(ダイヤモンド社)。
 

西立野竜史
ビジネスプロデューサー
東京大学大学院修了。アルー社外取締役。東京理科大学理事長特別補佐兼特任教授として大学改革を推進。