パソコンやメールをろくに使えない社員もザラ

「何も知らないサラリーマンが会社を買うと地獄を見る」と警鐘を鳴らす井上さん。だが、彼の失敗の一因には低迷する音楽業界に足を突っ込んでしまったからというのもあるのではないだろうか。すべての業界に「手を出すな」とは言い切れないのでは?

「ほかの業界も一緒ですよ。その本で後継者に悩む高齢社長の会社を買うことが提案されていますが、それこそもっとも危険です。社長が70代なら社員も60代中心で全体が高齢化していることが珍しくない。急にやってきた年下の社長の話など聞かないんですよ」

さらに同書では、中小企業は業務改善の余地が大いにあるため、大企業で培った業務システムのノウハウを導入すれば生産効率が上がることが述べられているが――。

「中小・零細企業の社員は大手出身者に変なコンプレックスを抱いているため、非協力的な態度をとる可能性が高いです。私も『何もわかってないヤツがきやがった』と線を引かれ、簡単に言うことを聞いてくれませんでした。また、大企業で学んだやり方を導入するには時間もお金もかかります。パソコンやメールもろくに使えない社員もザラで、その落差に愕然としますよ」

同書では、実際に買う前に、ある程度の期間、買収候補先企業で役員として働くことを推奨している。そうすることで、会社の重大な瑕疵を発見でき、社員からの信任を得られるという。

井上さんは「本当は、これから成長する会社を買うべきだったんです。後継者不足で悩んでいる会社は、買い手がつかないということ。銀行からカネを借りられないのに、一介のサラリーマンが手を差し伸べたところで、多くの会社では、それは延命措置でしかないと思います」と吐露した。

(撮影=プレジデント編集部 写真=iStock.com)
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