当然ながらいかに東京都といえども、もうそんなことはできない。東京都は今後25年間で90万人以上の高齢者人口の増加がある。仮に全国平均並みの高齢者人口の3.5%相当の介護施設をこれから追加でつくるとして、今までと同じようなことをやっていたら約3万人分。そもそもそんなまとまった土地が見つけられたとしての話だが、土地代と建設費だけで、単純計算して3兆円の金がかかることになる。
さらに言えば、足りないのは施設サービスだけではない。デイサービスも、訪問看護サービスも、小規模特養もグループホームも、往診してくれる在宅支援診療医も、とにかくあらゆる医療介護サービスが不足するのだ。
大量の介護難民を発生させないために
多くの高齢者は、できれば自分が住み慣れた地域で老後を過ごしたいと考えている。施設には行きたくない。その気持ちは都市部の高齢者とて同じである。だからこそ、厚労省も各自治体も、ホームヘルプサービスやデイサービスといった在宅ケアの充実を積極的に進め、認知症グループホームや小規模多機能型居宅介護といった新しいサービスも用意して、地域で住み続けられるための取り組みを進めてきた。
近年、サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)や小規模の有料老人ホームといった、住宅型サービスが急速に増えている。「特定施設入居者生活介護」と呼ばれているもので、バリアフリーなどの配慮をした住宅(=ハード)に介護サービス(=ソフト)が付帯している共同住宅である。基本は「住宅」なので供給主体は福祉事業者に限定されないし、民間デベロッパーも参入しやすい。ケアの質の確保などの課題もあるが、持ち家率が低く地価の高い都市部に適したサービスと言える。
こういった様々な在宅支援サービスを一人一人のニーズに合わせてパッケージにし、切れ目なく提供するためのネットワークが「地域包括ケア」だ。地域の限られたリソースを効果的に活用するという意味でも、専門家は「地域包括ケアはこれからの都市部にこそ必要な取り組み」と断言する。
このまま手を拱いていれば20年後の東京は数十万人規模の介護難民の発生で身動きが取れなくなる。20年の東京オリンピックも大事かもしれないが、「街としての東京の持続可能性」を考えたら、21世紀前半最大の東京の政策課題は間違いなく「高齢者介護問題」である。一刻も早く、それこそ「東京都版21世紀のゴールドプラン」でも策定して、ヒト・モノ・カネを集中的につぎ込まなければ間に合わなくなる。
※本稿は個人的見解を示したものであり、外務省ともアゼルバイジャン大使館とも一切関係ありません。
元・内閣官房内閣審議官 駐アゼルバイジャン共和国大使
1956年、東京都生まれ。東京大学卒。厚生労働省で政策統括官、年金局長、雇用均等・児童家庭局長を歴任。内閣官房内閣審議官として「社会保障・税一体改革」を取りまとめた。