かつて高度経済成長期に都会に移住してきた団塊の世代の高齢者は25年までに一気に後期高齢者となる。その数、1都3県で総計約150万人。彼らが90歳になる40年には生き残った高齢者の半数が要介護状態になる。21世紀の高齢者問題は、都市部の問題といっても過言ではないのだ。

すでに高齢者人口すら減少に転じている地方では、もはやこれ以上の医療介護サービスのインフラ整備は必要ない。現に地方では特養ホームが空き始めている。もちろん医療介護を支えるマンパワー不足は深刻だが、それは地方に限ったことではない。

他方、都市部では、今後も施設介護、在宅介護、地域医療、病院、ありとあらゆる医療介護サービス需要が膨大に発生し続ける。増大する高齢者人口を支えるための医療介護サービスインフラの整備をさらに進めていかなければならないのだ。

実は現在でも、東京23区の医療介護サービス、特に施設介護サービスは充足していない。その不足を周辺近郊都市がカバーする形でなんとか帳尻を合わせているのが実態である。しかし前述のように、今後は近郊都市でも高齢化が急速に進行する。しかも近郊都市の医療介護サービス需要の伸びは23区以上に大きい。早晩、近郊都市には、23区から溢れ出た高齢者を受け入れる余力はなくなる。結果、東京圏の1都3県全体が大幅なサービスインフラ不足という事態に陥る。冗談ではなく、その可能性は極めて高いのである。

かつて特養ホームは「億ション」だった?

読者各位は、00年の介護保険創設前、1990年代に実施された「ゴールドプラン」「新ゴールドプラン」という計画を覚えておられるだろうか。

来るべき高齢社会の到来に備え、施設・在宅を通じた介護サービス基盤の抜本的な拡充を目指して国が策定・実施した、介護サービス基盤整備計画である。実は89年の消費税創設、そして97年の3%から5%への税率引き上げはこの計画を達成するための財源確保の方策だった。この計画があったおかげで、不十分ながらもなんとか介護サービス基盤の整備が進み、介護保険は「保険あってサービスなし」に陥ることなくスタートできたのだ。

当時、高齢化問題はどちらかといえば地方の問題だった。当然のことながら高齢化の進行は地方のほうが速い。東京や大阪の高齢化率がまだ一桁だった頃、たとえば秋田や鹿児島の高齢化率はすでに15%を超えていた。財政力のある都市部では、高い地価もなんのその、50億、60億というお金をかけて老人ホームを建設していた。その金額は、1室(1床)で約1億円。高齢者介護を担当していた厚労省の役人は、ため息交じりに「23区の特養ホームはワンルームの億ション」などと揶揄したものである。それが可能だったのも、そもそも高齢者の数がまだまだ少なかったからだ。