オフィスが手狭になった、もっと賃料を下げたい――。これまで企業のオフィス移転は、 そんな理由が多かったはず。だが時代は変わった。「働き方改革」を強力に推進するため、 移転をテコに実施する動きが加速している。その実態と今後の見通しを、賃貸マーケットの 専門家が解明する――。
写真=ロイター/アフロ

東京23区の空室率は、わずか2%!

企業のオフィス移転の需要が止まらない――。

「東京23区の空室率は、2011年第2四半期に9.27%だったのが、18年第2四半期には2.28%まで下降。18年第2四半期に竣工したビルはほぼ満室となり、これから竣工予定のビルもテナント誘致が順調に進んでいるとみられます」

そう語るのは、オフィスビルや商業施設の賃貸マーケット市況を調査・分析するザイマックス不動産総合研究所の中山善夫社長だ。

「19年以降も新しいビルの供給が増え続けます。しかもわりと大型のビルが多い。そうしたビルに『集約移転』『拡張移転』する企業の動きが活発化しているのが現状です」

空室率は、オフィスの供給と需要のギャップを表すものだ。供給が増えれば、それに応じた需要がない限り空室率は上がる。そして賃料は下がり不動産マーケットは悪化するわけだ。だから18年以降、供給が増えれば賃料は下がるというのが大方の見方だった。

「ところが、需要のほうに目を転じて見ると、企業は人手不足を背景に、人材の採用を変わらず活発に続けています。それだけオフィスの床面積を大きくしなければならない必要性に迫られているのです。オフィス需要は『オフィスワーカー数×1人当たり床面積』で決まります。統計上、現在の1人当たりの床面積は平均すると約3.8坪です。

弊社が実施した今後1年の見通しを企業に聞いたアンケート調査でも、『人を増やす』『オフィスの床面積を増やす』という答えのほうが、『減らす』『小さくする』という答えよりも明らかに多い。この傾向はしばらく続くでしょう」

さて、ここまでは“量”に起因するオフィスマーケットの需給傾向の話だが、さらに“質”に起因する動機でもオフィススペースを求める動きが加速しているという。

「『働き方改革』を進める前提として、各企業は“働く場所の改革”に取り組み始めています。これまでなら、同じ職場にみんなが集まらないとできなかった仕事が、モバイルPCを使って外でも仕事ができるようになりました。サードプレイスオフィスなどのテレワークの活用も増えています。同時に、オフィスの中にも働きやすさが価値観として求められているというのが今の流れです」

だから、オフィスに求められる要件もこれまでとは変わってきている。

「従来は、立地やビルの管理状態が良いことに加え、耐震性を満たした頑丈な建物であるとか、セキュリティが高いといったことが重要視されてきました。当然それは、ハード面で要求される基本スペックであることに変わりはありません。停電時にバックアップ電源を備えるなど、災害時にも事業を継続できるBCP(Business Continuity Plan)に適応することも重要な要件です。それらに加え、昨今ではソフト面として、快適性、働きやすさ、社員の健康向上が重視されてきているというわけです」