賃料相場で穴場なのは田町、浜松町、神田、四谷

複数箇所にオフィスを借りている企業は、効率が悪いと感じているケースもあるであろう。そうした企業では、新しいオフィスビルにまとめて集約移転し、その機会に働き方改革を取り入れ、実践するという形が増えているというのが典型的なパターンだ。

では、それまで使っていた、空いたスペースはどうなるのだろうか。

「今のところオフィススペースの拡張ニーズが強いので、同じビルに入っている他のテナントが借り増しをするケースが多いです。住所や電話番号などをほとんど変える必要がない点でも利便性が高い。なかなか願って叶うものではありませんが、こうした“館内増床”も非常に人気が高いんです」

ところで、オフィスを移転するに際し、現在注目されているエリアはあるのか。

「東京の大型開発は、特定のエリアで行われています。まずは大手デベロッパーのお膝元ともいえる、丸の内・大手町、日本橋、虎ノ門、渋谷。ほかには、池袋、品川新駅、浜松町・田町周辺もいくつかのプロジェクトが進行中です。

最近の傾向としては、大型開発の場合、単にオフィスだけではなく日比谷ミッドタウンに見られるように、商業施設などを加えた複合用途となるケースも少なくありません」

大規模ビルを探すのであれば、大きなターミナル駅やオフィス街に限られる。また、中小規模のビルを探すのであれば、取引先企業や役所に近いなど自分たちの会社にとっての利便性を優先するのが一般的。個人住宅を選ぶのとは違い、「割安だから」という理由で企業がエリアを絞るケースは少ないようだ。

その前提を踏まえたうえで、目下の賃料相場から割安と見られているエリアはあるのか。

「まず、田町・浜松町です。利便性やイメージが悪くないのに、虎ノ門や丸の内と比べ、賃料に割安感があるのは魅力です。

中小のオフィスビルなら五反田も狙い目。隣駅の目黒や恵比寿と比べれば安い」

つまり、山の手線の駅近でありながら、近隣の駅よりやや知名度やブランド力が低いところは、利便性のわりに安いケースがあるといえそうだ。

「東京駅の隣駅である神田も注目されています。大手町に隣接していながら、古い建物が密集した街並みが手つかずの状態で残っているからです。大きな土地がないので大規模な開発がしにくいのが課題ですが、少しずつ街は変わり始めています。

山の手線の内側では、四谷も注目エリアです。駅前の旧四谷第三小学校や財務省公務員宿舎跡地を活用した再開発が進められています」

10年前ならオフィス移転といえば、縮小移転など賃料を下げるための移転が主目的とされていた。

「今は全く逆の動きが多くなっています。面積を増やしたり、賃料が高くても環境を改善しようという状況ですから。来年も経済が急失速しない限りは、この傾向は変わりません。

また、オフィスの市況に関しては、東京オリンピックの開催に左右されることもないはずです」

企業にとっては人が財産。その人がちゃんと働ける環境を整えていけば、新卒でも中途採用でも、さらにいい人材が入ってくれる。すると企業の価値や業績が高まる――、という好循環が生まれる。

企業にとってオフィスをどう構えるかは、重要な経営戦略の一つになっているといえそうだ。

(小澤啓司=文)

中山善夫(なかやま・よしお)
ザイマックス不動産総合研究所代表取締役社長。ニューヨーク大学大学院不動産修士課程修了。1985年一般財団法人日本不動産研究所に入所、数多くの不動産鑑定・コンサルティングに従事。2001年より11年間、ドイツ銀行グループの日本における不動産審査の責任者。12年より現職。不動産全般に係る調査・研究およびザイマックスグループのPR等を担当。不動産鑑定士、CRE(米国不動産カウンセラー)、FRICS(ロイヤル・チャータード・サベイヤーズ協会フェロー)、MAI(米国不動産鑑定士)、CCIM(米国不動産投資アドバイザー)。ARESマスター試験委員。