信用度が高ければ、さまざまな「前金」が不要になる

中国では、車のレンタルや不動産の賃貸、手術などの高額な治療、図書館の本の貸し出しといった公共サービスに至るまで、サービスの大半にはデポジット(いわゆる前金)が必要だ。それだけ中国では、他国では成立するような信用をベースにした取引が困難なのだ。

しかし、信用度の得点が高いと、そうしたデポジットが免除される。さらに病院での受診、海外渡航のためのビザの取得、金融商品の金利などでも優遇が受けられる。信用度が高いほど、生活の利便性が向上するのだ。

人々が自分の能力やキャリアを高めることで、あるいは社会的なルールをきちんと守ることで生活の利便性が向上するなら、個人にとっても、社会にとっても好ましいことのように思う。ところが、この仕組みには深刻な問題もある。

このままだと「低得点者」との交友を望む人はいなくなる

例えば、故意でなくとも過失の累積により得点を失うと、生活の利便性は大きく後退してしまう。信用度の「見える化」は、低得点者にとっては、サービスを受ける順番が後回しにされ続けたり、最悪の場合、サービスそのものの利用が断られたりすることにつながる可能性があるのだ。

たとえば中国では、入院によって公共料金の支払いに行けず、支払期限を一時的に超過した人が救済を訴えている。このようなやむを得ない理由があっても、信用度は下がってしまうのだ。

さらに当人とはまったく関係のない事由でも信用度が下がってしまうことがある。信用生活では、信用度の評価の項目に交友関係が含まれている。このため低得点者との交友が低評価につながるとわかれば、低得点者との交友を望む人はいなくなるだろう。そうなれば、低得点者は、名誉挽回のチャンスも得られないまま、社会的に排除される恐れがある。

また、中国に進出する外資系の大手企業も、求人に当たって就職を希望する人たちの信用度を重視する姿勢を見せているし、恋愛や結婚においても、パートナーとなる人物の信用度が重視されはじめているというから、中国では、信用度が何点であるかは、生活の利便性のみならず、人生そのものを左右する一大事になりつつあると言える。