予測アルゴリズム対策として、積極的に「品行方正」に

要するに、中国では、信用度の向上や維持がすでに死活問題になっているのだ。実際、中国では信用度を上げるための攻略法がSNS上で盛んに情報交換されている。それによれば、支払期日の厳守は言うに及ばず、SNS上の交友関係を広げることや、本人の信条や価値観に関わりなく積極的に寄付を行うことなど、さまざまな試行錯誤が試みられており、得点を得るための対策に必死な様子がうかがえる。

人々が生活の利便性や豊かな人生を求めて、つまり予測アルゴリズムへの対策として、積極的に「品行方正」になろうというのだから、人びとの規範意識を高めることに苦労してきた統治者にとって、これほど都合の良いことはないだろう。

中国政府が予測アルゴリズムに関心を示し、「社会信用システム」を構築しようとする理由は、まさにここにあるのだ。このような仕組みは、国務院が通知した「社会信用システム建設計画綱要(2014~2020年)」に記載されているように、「社会全体の誠実性と信用度を向上させる」ものかもしれない。むろん、それはプライバシーの保護や、私的自由、自律といった権利意識を犠牲にするものでもあるのだが。

高い信用度が「ステータスシンボル」になっている

中国では、高い信用度はすでにステータスシンボルになっているという。その意味では、信用格付けシステムは、多少の犠牲を払ってでも、面子を保つことを何より大事にする中国人の気風や自尊感情をうまく利用したシステムだと言える。「社会信用システム」も同様に、権利意識と自尊感情をトレードオフ関係に持ち込むものだとしたら、これほど狡猾な統治手法は他にはない。

一方、欧州は「EU一般データ保護規則(GDPR)」により、統治の効率性よりも個人の権利を優先させようとしている。米国では、テロの脅威に備えるために「予測アルゴリズム」の導入が司法や警備の領域で進んでおり、個人の権利と治安維持のバランスに苦労している。私たちは予測アルゴリズムに対してどのような態度で臨むべきなのか。難しい選択を迫られている。

堀内進之介(ほりうち・しんのすけ)
政治社会学者
1977年生まれ。博士(社会学)。首都大学東京客員研究員。現代位相研究所・首席研究員ほか。朝日カルチャーセンター講師。専門は、政治社会学・批判的社会理論。近著に『人工知能時代を<善く生きる>技術』(集英社新書)がある。
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