しかしこちらについては、競争対応とは別の問題がある。現在のところ、ゾゾのオーダーメイド商品のラインアップは定番のデザインに限られており、服選びの楽しさには欠ける。自分の体形に合った既成服がなかなか見つからないという人たちにはよいが、ファッションへのこだわりが強く、トレンドを取り入れたスーツを着用したい人には物足りないだろう。

真の狙いはサプライチェーンの整備か

日本経済新聞では5月23日付けで「ゾゾスーツの無料配布のコストに見合った収益はあげられないのではないか」「スタートトゥデイの利益率が低下するのではないか」といった懸念を指摘している。海外事業についても本格展開的には大きな投資が必要で、利益率の低下を招く恐れがある。

そうした指摘はもっともだろう。だが私は、前澤社長はさらにその先をにらんでいるのではないかと考えている。

今後スタートトゥデイが他社に先行して、ネット・オーダーメイドのアイテム数を増やすとともに、サプライチェーンの整備をグローバルに進めていけば、将来は各国のファッション・ブランドが、ネット・オーダーメイド事業のOEM先としてスタートトゥデイを選ぶといったことも起こりうる。

なぜなら多くのファッション・ブランド企業からすれば、ネット・オーダーメイドという新領域への参入を、サプライチェーンに新規投資することなく、デザインと企画に集中しながら実現できるからである。これはエレクトロニクス産業におけるEMSとファブレス企業のような関係だ。スタートトゥデイはファッション通販サイトも手がけるため、より大きな付加価値を手にすることになる。

もちろんこれは、ファッション産業の全体から見ればニッチともいえる小さな事業領域にすぎないが、グローバルに展開することができれば相当の規模となる。ゾゾスーツは、このような展開に向けた布石とも見ることができる。

栗木 契(くりき・けい)
神戸大学大学院経営学研究科教授
1966年、米・フィラデルフィア生まれ。97年神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了。博士(商学)。2012年より神戸大学大学院経営学研究科教授。専門はマーケティング戦略。著書に『明日は、ビジョンで拓かれる』『マーケティング・リフレーミング』(ともに共編著)、『マーケティング・コンセプトを問い直す』などがある。
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