メンバーシップ型組織とティール組織の類似性

ティール組織には、管理コストの縮小による効率化、モチベーション上昇のための阻害要因の排除、現場起点による高い変化対応力などの特徴がみられる。次世代型の組織特有の仕掛けや仕組みは、つまるところ付加価値を生み出すことのできる社員を増やす(付加価値をあまり生まない、もしくは生まない社員を減らす)とともに、彼らの自律性や主体性を極限まで引き上げる効果を持っていると言える。

ティール組織は階層性を持たず、上司や肩書が存在しないケースも少なくない。非常に独特な組織と映るが、実はメンバーシップ型組織との類似性も見られる。まず、仕事が柔軟であるという点が挙げられる。ジョブ型組織では職務記述書により、社員一人ひとりが担う仕事の内容は明確に定められている。

一方、ティール組織では異なる部署の仕事を引き受けたり、社員が新たな仕事を創り出したり柔軟性が高く、仕事内容や役割が固定化していない点でメンバーシップ型と近い。また、離職率が低いという点も共通している。

ティール組織に勤務する社員はその企業に対し、高いエンゲージメントが感じられるとともに、自分の仕事が環境の変化等でたとえなくなったとしても、別の活躍の場を社内に容易に見つけられることで、離職率が低く抑えられる。メンバーシップ型組織においても、一人ひとりの社員の仕事が固定化していないために、市場環境の変化を受けて組織を大きく再編しても人材の配置を行いやすいため、ジョブ型組織と比べると離職率が低い傾向にある。

そこで、一人ひとりのメンバーが、場の空気を読みながら自分の役割を感じ取り行動するメンバーシップ型の組織原理を推し進めた先の姿の一つに、「ティール組織」を位置付けることも可能ではないか。管理職やコーポレートの部署が存在しないか少ないことから、一人ひとりの社員が担う責任と裁量はメンバーシップ型組織と比べると極めて大きい。しかし、職務記述書がなく、自律的に課題を見つけ、仕事を主体的かつ能動的に改善したり、新たに創り出したりする働き方ができるのは、会社の成長と自己の成長を一体的に捉えることのできる人材、つまり、会社全体の視点を持つ人材である。そうでなければ、単に無秩序な集団になってしまうだろう。

これは「メンバーシップ型雇用」の言葉の由来である「社員(member of company)」の立ち位置に近いともいえる。日本的雇用慣行を支える「社員」を直訳すると「member of company」となるが、この言葉は実は「株主」を意味する。つまり、「社員」という概念には、ジョブ型の雇用形態である「賃金労働者」とは異なる、会社全体の視点に立った株主的視点を持つ人材像が込められているのではないだろうか。もしそうだとすれば、ジョブ型組織よりも、メンバーシップ型の特質を多く持つ組織の方がティール組織に転換しやすいと思われる。