現在は、このように「ないないづくし」の組織だが、初めからそうだったわけではなく、1980年代前半以前は通常の企業と同様に、階層型で管理型の組織だったという。ジャン・フランソワ・ゾブリストがCEOに就任してから、普通の会社に普通に備わっている要素を一つひとつなくしていった結果、企業の活力と成長に大切なものが生まれた。従業員の仕事への責任感と誇り、従業員同士の信頼感、従業員の自発的な意志による業務改善と業務遂行である。従業員は特定の役割に固定化されていないため、組織の中で自分の新たな役割を探し、提案し、新たな役割を担うこともできる。
ティール組織の特徴を一言でいえば「集団的知性に信頼を置いたシステム」といえる。
ところで、メンバーシップ型とジョブ型は本来、働き方に関わる区分ではあるが、組織のパターンと見なすことも可能である。そこで、それぞれ「メンバーシップ型組織」、「ジョブ型組織」と名付け、ティール型組織との違いを整理すると次のようになる。
ティール組織を特徴づける自主経営、全体性、存在目的
ラルーは、ティール組織を特徴づける重要なキーワードとして、自主経営、全体性、存在目的の3つを挙げている。
組織に関わるラルーの素朴な疑問の一つが「資本主義社会においては、経済社会全体では“市場経済”が機能しているのに、なぜ企業の中では管理することに高い信頼を置く“計画経済”が行われているのか」という点である。「自主経営」という考え方は、まさに市場経済が成り立つための条件を企業組織内に導入する発想と言える。
例えば、オランダのビュートゾルフ(在宅ケア、表参照)では、以前は階層的で管理型の組織だったが、10数人のチームに細分化し、新患者の受け入れ、ケアプランの作成、休暇のスケジューリング、業務管理、拠点の位置などあらゆることをチーム内で意思決定させることで、看護師の責任感が高まり、職場風土の良好になり、患者へのサービスの質が向上したという。
「全体性」とは、社員は人間としてすべてを職場に持ち込むという考え方である。ホワイトカラーは主に直感や感情を抑え、思考を活発化させることで業務をこなす。しかし、人間の心的機能はすべて関係しあっているため、直感、感覚、思考、感情を引き出すことで仕事に全精力を注ぎやすくなる。ならば、自宅にいる時と同じような心理状態を職場でも実現できれば、社員の能力は最大限発揮できるのではないか、との発想が原点にある。
また、「存在目的」については、ラルーは次のように述べている。「ミッション・ステートメントは本来、従業員に感動と指針を与えるものだ。……意識の重点を自己防衛から存在目的へ転換すると、戦略立案、予算作成と達成への取り組み、目標の設定、製品の開発と販売、従業員の採用やサプライヤーの選択など、組織の重要な行動様式も大きく変わる」。
企業組織の存在目的を重視するようになると、どうなるか。例えば、フランスの製造業であるFAVIでは、「もし100%の純銅でできた工業製品を鋳造できたらどうなるだろう?」との発想で、市場調査をせず、遊び心で創意工夫を行ったそうだ。
純銅部品は電気モーターの性能を劇的に高め、今やFAVIの主力製品となっているという。FAVIのケースは、組織の存在目的を社員一人ひとりがしっかり認識していることで、イノベーションが生まれる可能性を示唆している。