磯野波平54歳、フネ48歳を頂点とする日本を代表するファミリーの面々。サザエ夫婦にカツオ、ワカメ、タラちゃん。あの平和な家族に亀裂が入るときが訪れた。長年勤め上げた山川商事を定年退職して15年、波平75歳、フネ69歳、それまで元気に家事を切り盛りしてきたフネが脳梗塞で突然倒れてしまったのだ。要介護度5、ほぼ寝たきりの状態になり、身の回りのことも家族が面倒を見なくてはならなくなった。しかし波平もすでに75歳。自分の足元も覚つかなくなってきているうえ、これまですべてを妻に任せきりにしてきたため、自分一人では下着の位置さえわからない。カツオはあの調子でフリーター、タラちゃんはタコ焼き屋。頼みの綱はワカメとサザエだが、2人とも仕事と家庭で忙しく、母親の介護を完璧にこなす自信はない。

波平は有料老人ホームを探すが、磯野家の住む世田谷では入居一時金だけでも4000万円は下らないことが判明した。波平は家族会議を開き、こう宣言する。

「ワシはこの家を売ろうと思う。見積もりによるとこの土地は9000万円にはなるらしい。そのうちの4000万円でフネを老人ホームに入れてやりたいのだ。月々30万円の費用はワシらの年金と合わせて払っていこうと思う」

だが家族からは猛反対の声が上がった。

「そんなことをしたら、私たちはこれからどこに住めばいいの!」

「磯野家の相続」紛争勃発である。仲良し家族の代表磯野家ですら、介護問題は一筋縄ではいかない。ましてや世間の一般家庭など、どうなってしまうのだろう。