医師同士の意思疎通がない
「特定の臓器や病気だけではなく、患者の全身を診て必要な手当てをする。そんな医師としての当然の務めをないがしろにする行いと言わざるを得ない」
こう書き出すのは、6月24日付の朝日新聞の社説である。
「千葉大病院が、この約5年間に9人の患者のCT検査の結果を見落としていたと公表した。うち5人については、画像を診断した放射線科の医師ががんの疑いなどの異常に気づき、報告書で指摘したのに、受け取った肝心の主治医が見逃した。自分の専門部位にだけ注意を払っていたのが原因だという」
放射線科の医師と主治医の間で意思疎通ができていない。朝日社説に書いてあるように、自分自身の専門領域にだけ着目して診断していたのだろう。
名医ほど「複眼」を持っている
患者の命を預かる医師にとって大切なのは、タカの目とアリの目で患者を診ることだ。空を飛ぶタカは客観的に物事を判断できる。土をはうアリは目の前の物事に着実に対処できる。タカだけでもアリだけでもいけない。周りばかり見ていると、足元がおろそかになる。逆に足元ばかり見ていると、周りが見えなくなるからだ。
それなのに机上のパソコンばかり見て患者の顔も見ない若い医師が増えている。もちろん検査データの数値から患者の病状を判断することは重要だ。しかし数値だけでは目の前の患者の病状を深く判断することは難しい。
名医ほど複眼を持っているといわれる。複眼は医学・医療の知識や経験だけでなく、人としての生き方や哲学までを包括する。そこらの手術手技などは、そうした複眼と比べて何の役にも立たないこともある。
「報告書に目を通していないケースも複数あった」
さらに朝日社説は指摘していく。
「医療事故の分析にあたる日本医療機能評価機構によると、約1千の病院を対象にした調査で、15年1月から18年3月末までに、画像報告書の所見見落としなどが計37件報告された」
「機構は先月、全国に注意を喚起した。昨秋、同趣旨の通知を出した厚生労働省も、対策の徹底を再度求めた。各病院はいま一度、足元を点検してほしい」
「機構によると、主治医が画像をみて自ら診断し、報告書に目を通していないケースも複数あったという。過信は禁物だ」
「技術の進歩により、想定外の部位で病変が見つかることはよくある。主治医は報告書に謙虚に向きあい、画像を診断した医師は、異常や兆候を見つけたら確実に主治医に伝える。この連携を徹底する必要がある」
「画像報告書の見落としが37件」という多さには驚かされる。「足元の点検」「過信は禁物」「主治医と画像診断医の連携の徹底」。どれも重要なことである。