がんが転移しただけでは死なない
病気で亡くなる場合、重要な臓器が機能を失っていくスピードは交通事故のように一瞬で起こることはなく、通常はゆるやかであり、急に亡くなることは稀です。がんの場合も、生命を維持できない理由を満たさなければ、いくらがんが進行しても死ぬ理由にはなりません。多くの人は、がんが進行すれば確実に死に近づくと考えがちですが、いくらがんが進行しても、死ぬ理由を満たさなければ絶対に死なないのです。
それでは、がんが進行して死んでしまう理由はどこにあるのか、例を挙げて見てみましょう。
骨から発生するがんを骨肉腫といいます。どこかよそにできたがんが骨に転移したものではなく、あくまでも骨の細胞ががん化して、骨から塊をつくっていったものです。この骨のがんが進行するとどうなるでしょうか。
骨にできたがんは増殖しながら腫れ上がります。骨を覆っている骨膜を刺激し、今ある正常な骨を破壊しながら大きくなるので、痛みをともなうかもしれません。
しかしそれだけで死に至ることはありません。骨は骨格を維持するために必要なものですが、生きるために絶対に必要な臓器ではありません。ということは骨肉腫の患者さんは、骨にできたがんが進行して大きくなっても、すぐに亡くなってしまうことはありません。
骨肉腫の患者さんが死に至る理由を満たすことがあるのは、肺や脳といった主要な臓器に転移したときです。そこに転移したがん細胞がどんどん増えることで、生きるために絶対に必要な臓器の機能が低下し、生命を維持できなくなる場合があります。
これを別の角度から見れば、骨肉腫がいくら進行して大きくなったり、転移したりしても、生命に関わる臓器に転移・進行して臓器不全にならなければ、死ぬ理由はやってこないということです。
私は、がんが見つかったとき、すでにがんがかなり進行している患者さんを診ることがあります。そのような患者さんは、「先生、私はステージ4なんですよ。もうダメです」と言って、とても落ち込んでいます(ステージというのはがんの進行度合いを示す言葉で、1~4に分類され、数字が大きいほど進行が進んでいます)。「治療していたのに、肝臓に転移した」「肺に転移した」と落胆している人も多く見受けられます。