患者は実際以上に悲観しがち

このような患者さんがショックを受けるのは当たり前ですし、気持ちも理解もできます。落ち込んでしまうのは「がんの進行=死へ近づく」という感情が一気に高まるからでしょう。しかし今まで説明してきたように、がんが進行したからといって、死に直結するわけではありません。死ぬためにはそれだけの理由が必要です。つまり肝臓や肺が生命を維持できなくなるほど機能が低下しなければ死にません。

それでは果たしてどの程度、肝臓や肺でがん細胞が増えれば、生命が維持できなくなるほどの機能の低下が生じるのでしょうか。

50~60年ほど前は、肺結核になると手術で片肺を取ってしまう人が大勢いました。

また現代では、肝臓の悪い人に家族が肝臓の一部を提供してそれを移植する、生体肝移植という治療も行われるようになりました。生体肝移植を受ける人は、病気の肝臓を100%取ってしまって、臓器提供者の肝臓の一部をもらいます。

提供する側は肝臓のおよそ3分の1をあげることになります。移植を受けた人は少なくとも手術直後は健康な人の3分の1の大きさの肝臓で生きていくことになります。肝臓の3分の1をあげた人は、残り3分の2で手術直後は生きていくことになります。それでも2人とも生きていけるということです(手術後に、その肝臓は時間の経過とともに徐々に大きくなり、いずれは元の大きさに近いくらいになります)。

つまり、肺は半分、肝臓は3分の1しか残っていなくても、最低限の機能を維持することができるから、私たちは生きていけるのです。

がんの転移もこれと似ています。がんがいろいろな臓器に転移すると、その転移した部分には本来の機能はありませんから、残りの正常な部分で臓器機能を維持することになります。その機能が最低限の機能を維持していれば、死ぬことはありません。

さらに肺や肝臓に結構な転移があっても、血液検査によって、本来の機能が低下していないと判明することもあります。患者さんも痛くもなければかゆくもなく、言われなければ気づかないことすらあるのです。