抗がん剤、病院選び、がんの正体……がん患者さんとご家族が“がん”と“がん治療”の全体像について基本的知識を得る機会は多くありません。本連載では、父と妻を“がん“で失った専門医が、医師そして家族の立場から、がん治療の基本を説きます。

がんで亡くなる人が多いのは長寿のせい?

私たちががんの告知にショックを受けるもっとも大きな理由は、がんで亡くなる人が多いことです。実際、日本人の死因の第1位はがんです。このことが、日本人が“がん”に恐怖心を持つ大きな理由の一つかもしれません。

ではなぜ日本人には、がんで亡くなる人がこれほど多いのでしょうか。日本人の食生活の内容が昔に比べて悪くなったからでしょうか? あるいはストレスが多いから? そうかもしれません。しかし、もっとはっきりした原因があります。

『がんを告知されたら読む本』(谷川啓司著・プレジデント社)

がんが発生するのは、細胞分裂の際に遺伝子の写し間違いが起こるからです。私たちが長く生きれば生きるほど、細胞分裂の回数は増えます。

その分だけ遺伝子に間違いを起こす可能性も増え、がんになる確率が高くなることになります。したがって私たちが年をとればとるほど、がんになる確率は上がるわけです。

皆さんご存じのように、日本は世界を代表する長寿国です。すなわち日本人にがんで亡くなる人が多いのは、裏を返せば日本人が長生きだからこそ。がんにかかってもおかしくない年齢の人の比率がどんどん高くなっているからです。

日本人にがんが多いもう一つの理由は、日本の医療が発達していることです。

矛盾しているようですが、医療技術が発達すればするほど、がん以外の病気で死ぬことが少なくなるのです。皆さんの周囲にも、高血圧やコレステロールを気にしながら、食事をしたり薬を飲んだりしている人が多いでしょう。

こうして日本人が日頃からの自分の健康をケアすることによって、これまで日本人の死因の多くを占めていた脳卒中や心筋梗塞などで亡くなる人が減りました。そのため相対的にがんで亡くなる人の比率が増えたというわけです。

また、医療が発達したことによって、以前はがんと診断されずに亡くなっていたような人も、がんと診断される機会が増えました。

今や国や自治体の働きかけで多くの人が健康診断を受け、自主的に人間ドックを受ける人も増えています。医療保険制度のおかげで、誰もが気軽に病院に行けますから、ちょっとした不調で身体の検査を受け、そこでがんが見つかるケースも増えています。

以前は老衰が死因と診断されていたケースでも、医療の発達によって、がんが見つかり、がんによる死亡と分類されることも多くなっているはずです。

以上のようなことが、日本人にがんが多い理由と言えるでしょう。

※本連載は書籍『がんを告知されたら読む本』(谷川啓司著)からの抜粋です。

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