アメリカの象徴のひとつ、大型バイク「ハーレー」が、欧州向けの生産を米国外に移転させる方針を示した。アメリカの保護主義に対し、EUが報復措置をとった結果で、中国もこれに続く方針だ。しかし日本の動きはまだない。安倍首相はトランプ氏の機嫌をとるだけでいいのか――。
ホワイトハウスの南庭で、米ハーレーダビッドソンの大型バイクを前に談笑するトランプ大統領(左から2人目)と同社幹部ら(写真=EPA/時事通信フォト)

裏切りを許せないトランプ氏の怒り

「よりによってハーレーが最初に白旗を掲げるとは驚いた」
「私はアメリカの企業のために懸命に闘った」
「最終的にEUへの輸出で関税を払わなくて済むようになる」
「税金はハーレーの言い訳にすぎない」
「我慢しろ!」
「外国では絶対に製造すべきではない」

あのトランプ米大統領のツイッター投稿である。米二輪車メーカー「ハーレーダビッドソン」が6月25日、欧州向けの二輪車製造を米国外に移す方針を明らかにしたことに対する批判だ。

トランプ氏は「ハーレーは米国の象徴だ」と称賛していただけに、ハーレーの“裏切り行為”を許せず、怒り心頭なのだろう。

しかし欧州連合(EU)の通商担当閣僚に当たるマルムストローム欧州委員は翌26日の記者会見で、「ハーレーの国外移転は米政権による輸入制限の当然の帰結だ」と述べている。マルムストローム氏の言う通り、米国は鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を行っており、EUはその報復措置として米国二輪車の輸入関税を引き上げた。ハーレーの国外移転はその結果である。

アメリカ第一主義を唱えるトランプ氏が、自国の産業を保護するために実施した輸入制限が、皮肉にも米国製造業の海外流出を促してしまった。

「ジャックダニエル」は値上げで対抗

一方、バーボンウイスキーの「ジャックダニエル」で知られる米酒造大手ブラウンフォーマンは、EUに輸出する米国産ウイスキーを値上げする。

これもEUが対米報復措置で関税を引き上げたことへの対抗処置である。EU域内では700ml入りウイスキーで小売価格が10%程度も上がる。ヨーロッパではジャックダニエルの人気は高く、欧米間の貿易摩擦が消費者を巻き込む形となっている。

米国は今年3月、輸入品の鉄鋼とアルミニウムに追加関税を発動した。当初は対象としていなかったEU製品にも、6月1日から適用。EUは報復措置として22日から米国産のウイスキーに25%の追加関税を課している。

さらに米国は7月6日、知的財産権の侵害を理由に中国からの輸入品に25%の追加関税を課す制裁措置を発動した。これに対し、中国も報復関税を実施する方針を発表。アメリカと中国という2大経済大国による貿易摩擦は、一段と激化する可能性が高い。

日本はいまのところ、米国への対抗措置は取っていない。安倍政権はトランプ氏にしたたかに対応すべきだが、そうした判断ができるだろうか。