受働喫煙防止が「骨抜き」になった根本原因

受動喫煙対策強化を目指す改正健康増進法が7月18日、参院本会議で与党などの賛成多数で可決し、法案は成立した。

大勢の人々が集まる建物内を罰則付きで「原則禁煙」とする初めての法律である。改正法は東京五輪・パラリンピック開催前の2020年4月に全面施行される。

だが、この改正法に大きな期待はできない。例外規定によって飲食店の55%で喫煙が認められるからだ。改正法は「骨抜き法」と言っても過言ではない。

なぜ、ここまで骨抜きになったのか。

厚生労働省が昨年3月に示した原案では、例外的に喫煙を認める飲食店は「面積が30平方メートル以下」に限られていた。しかし飲食業界をバックに持ち、選挙時の票田にもなっている自民党議員が強く反発し、自らの政治権力をフルに使って自己利益の追求に走った。

路上の喫煙所(東京都港区、2016年8月12日撮影)(写真=時事通信フォト)

とくに自民党の「たばこ議員連盟」の厚労省に対する揺さぶりは強く、厚労省の担当幹部は押し切られ、例外が「面積100平方メートル以下」まで広げられた。

他人のたばこの煙を吸い込むのが受動喫煙だ。たばこも吸わないのにがんにおかされる危険性がある。厚労省研究班の推計だと、受動喫煙が原因で年間約1万5000人もの死者が出ている。これほど理不尽なことはない。

厚労省に反発した自民党議員は、国民の健康をどう考えているのだろうか。

背景に存在するのは、やはり「安倍1強」だ

この連載「新聞社説を読み比べる」でも、7月3日付で「都と国の"受動喫煙防止"どちらが正しいか」との見出しで、受動喫煙対策の問題を取り上げた。

6月27日に成立した東京都条例では、従業員を雇う店すべてを規制の対象としている。厚労省試算によると、都条例では都内の約84%の飲食店で喫煙ができなくなる。国の改正法による規制では45%の飲食店で禁煙となる。この数字だけ見ても、都と国とで大きな違いが出ている。

菅義偉官房長官は7月18日の記者会見で「成立した改正法は受動喫煙対策を段階的かつ着実に前に進めるもので、その意義は極めて大きい。望まない受動喫煙をなくすべく、対策の徹底が重要だ。政府として法律に従ってしっかり対応する」ともっともらしく語った。

しかし厚労省の担当者は「国の法律をベースにして自治体が条例で対策を強化するのは問題ない」と説明し、都条例への期待を示した。

国の規制がどこまで都のそれに近づくことができるのか。厚労省の官僚が、自民党議員の攻撃をかわすことができるか。今後の厚労省の腕も見せどころだ。

それにしても受動喫煙対策がここまで歪められた背景には、やはり「安倍1強」という政治情勢があると思う。

反発した自民党の国会議員たちは、官邸中心の政治、つまり閣僚ら政治家が霞が関の官僚を支配する政治の勢いに便乗して厚労省を脅した。悲しいかな、そこには国民の健康を守る意識のかけらもなかった。