報復が報復を呼べば、全てが敗者となる

毎日社説はジャックダニエルの問題にも触れる。

「ハーレーは恐らく最初の事例に過ぎない。『ジャックダニエル』で知られる米酒造大手のブラウンフォーマンはEUの報復関税を受け、欧州向け製品を値上げするそうだ。結果として販売が落ち込めば、経営に打撃となるはずである」

この毎日社説の指摘は納得できる。最後に毎日社説は「貿易戦争に勝者はない」と強調する。

「報復が報復を呼べば、世界経済は次第にモザイクのように分断され、成長が鈍り、先進国も貧しい国も全てが敗者となる」

「21世紀の我々は、互いに依存するグローバル経済の中にいることを米大統領は学ぶ必要がある。怒るべき対象はハーレーではなく、墓穴を掘った自分だと気付く機会だ」

その通りだ。しかしあのトランプ氏が「怒るべき対象は自分だ」と気付くことができるだろうか。大いに疑問である。

自由貿易体制が危機に陥ってしまう

7月4日付の朝日新聞の社説も「貿易戦争に勝者はいないことをトランプ大統領は認識し、保護主義を改めるべきだ」と主張する。見出しも「保護主義に歯止めを」である。

冒頭部分で朝日社説は「欧州連合(EU)やメキシコ、カナダなどが対抗措置として、米国製品に報復関税の適用を始めた」と指摘し、「このまま制裁と報復の連鎖が続けば、主要国が築いてきた自由貿易体制が危機に陥ってしまう。歯止めをかける方策を探らねばならない」と訴える。

そのうえで朝日社説は次のように書き進める。

「世界が注視するのは、米国がこの先、輸入車と自動車部品の関税も大幅に引き上げるかどうかだ。鉄鋼と同じく、米政府は国家安全保障を脅かしているかどうか調査中で、9月には発動するとの見方も出ている」

「トランプ政権の方針に対しては、米国の与党議員や産業界も『米国の製造業者と消費者を傷つける』などと反発を強めている。実際、欧州の報復措置の標的になった高級バイクメーカーの米ハーレーダビッドソンは、EU向けの生産を米国外に移すと発表した」

さらに朝日社説は日本の現状に言及する。

「日本は今のところ、鉄・アルミでは対抗措置を取っていない。しかし自動車は日本の対米輸出の3割を占める。国際分業が進む時代だけに、日本企業の海外拠点や他の国々への影響も大きい。米国の出方を見極めながら、世界貿易機関(WTO)に提訴するなどルールにのっとって強い姿勢を示すべきだ」

今後米国が輸入車と自動車部品の関税をも引き上げるかどうか。世界だけではなく、日本にとっても深刻な問題である。米国の出方を見極め、米国に対してルールに基づく強い姿勢を見せるのは当然だ。それこそ、安倍政権にはしたたかに対応してもらいたい。

日本は米国としたたかに交渉したい

したたかな対応とは何か。ここで6月28日に行われたサッカーのワールドカップ(W杯)ロシア大会でのポーランド戦を思い出してほしい。

負けているにもかかわらず、最後の10分間、攻撃を止め、得点を狙わずにパスを回して時間を稼いだ。警告や退場の数の差で決勝トーナメント進出を狙った作戦だった。確かに論議を呼び、批判の声もあった。

しかし結果は見事にリーグ戦を突破できた。現実的な作戦だった。肉を切らせて骨を断つことに成功した。これが真のしたたかさだと沙鴎一歩は思う。

外交でも同じである。あのトランプ氏の骨を断ってもらいたい。ただしいまの安倍晋三首相にそれができるだろうか。

(写真=EPA/時事通信フォト)
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