拡散した8700万人分の個人情報データは抹消できない

日本には「名簿屋」という稼業があるが、合法、非合法のデータを扱って商売にしているデータブローカーは世界中にいる。FBはそうしたデータブローカーからも情報を買い集めている。他サイトやリアルな小売店で購入した商品履歴、年収など、FB上で公開していないクレジットカードなどの情報を集めて、ユーザー情報を集約する。ターゲティング広告の精度を高めるためだ。

もちろん、ユーザーはそんなことは知るよしもない。従って、自分で公開した覚えのない情報に基づいた広告が舞い込んできて、驚かされることになるわけだ。

こうした情報収集は国家の情報機関が得意としてきた。世界最強の通信傍受システムと言われるのがアメリカを中心にイギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドが参加している「エシュロン」。アメリカのNSA(国家安全保障局)が運営主体とされるが、詳細は未公表だ。日本は協力国で三沢基地に受信局があるとされる。

最近でいえば日本赤軍の重信房子の逮捕は、エシュロンによるメール解析がきっかけになったと言われている。中国では公安部が情報活動を担って、国民生活に目を光らせている。中国政府が一番恐れているのが国民の反乱。軍事予算より公安予算のほうが大きいのはその対策だ。

国家による情報収集はさぞかし国民のプライバシーを踏みにじっていることだろうが、テロや国内の反乱を未然に防ぐという若干のメリットがある。

しかしFBがユーザーの知らないところでやっている情報収集、情報集約はあくまで商業利用目的で、ユーザーにメリットはほとんどない。それどころか、そうした個人情報がCA社のような第三者に流出、悪用されて民主主義の根幹が揺さぶられる事態になっている。トランプ氏の選出がCA社の功績とすれば、今や世界の多くの国が大迷惑を被っている、ということになる。そのCA社は18年5月2日に資金繰りを理由に倒産。各国政府からの追及を回避するのが目的であったと思われる。

FBは27万人から8700万人に拡散したデータを抹消することは技術的に非常に難しいという。いわばFBは井戸のようなもので、その井戸は縦横無尽に広がったサイバー社会という地下水脈につながっている。いくら水をすくい上げても、一旦、地下水脈に染み込んだ個人情報は簡単には除去できないらしい。サーバーを遮断してFBという井戸を閉じない限り不可能、という説もあるが、こちらはEUなどで巨額の罰金を払ってもしぶとく生きていくつもりらしい。

産業革命が資本家対労働者の対立を生んでから長い年月をかけて企業側の搾取を抑える社会に移行していった。サイバー社会でもこれと同じような利害の対立が個人とFBのようなプラットフォーム企業の間に生まれており、これを21世紀最大の社会的課題として解決していく地道な努力が求められる。

(構成=小川 剛 撮影=市来朋久 写真=AFLO)
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