FBの個人情報が当人の知らぬうちに無限拡散
今回の情報漏洩はCA社の元スタッフの内部告発から発覚したが、CA社は不正や疑惑の一切を否定したままだ。しかし、CA社立ち上げメンバーの1人はトランプ政権の元首席戦略官兼大統領上級顧問のスティーブン・バノン氏。
バノン氏といえば、大統領選挙のキャンペーンマネージャーを務めて、ひと頃はトランプ大統領の側近中の側近と言われた人物だ。CA社に設立資金を提供した米ヘッジファンドのCEOロバート・マーサー氏はトランプ大統領の支援者として知られている。またイギリスメディアのおとり取材に引っ掛かったCAの幹部は、世界の数多くの選挙でデータ分析による情報戦を仕掛けて勝敗を「演出」してきたこと、反ヒラリーキャンペーンを主導したことなどを得意げに明かしている場面がユーチューブで公開されている。
FBの個人情報を不正流用してフェイクニュースを蔓延させたり、そうした情報工作が投票行動に影響を与えて選挙結果が歪められたりするのは民主主義へのすさまじい冒涜だ。しかし、もっとシリアスなのは、FBの個人情報が当人の知らないうちに無限に拡散してしまうサイバー社会の恐ろしさである。27万人の個人データが8700万人に広がったように、いくら自分で注意深く個人情報を守っても、友人の「友達リスト」から情報が紐付けされて流出するリスクがついてまわるのだ。
18年4月、先の公聴会の数日前にFBはCA社の不正取得問題とは別に、世界20億人の利用者の大半について、「個人情報が悪用されるリスクがあった」ことを公表した。友人を探しやすくするために電話番号やメールアドレスで個人のアカウントを検索できるシステムを設けていたが、この機能を使って名前や写真、生年月日などの基本プロフィールが不正収集されて悪用される恐れがあったという。
すでにFBは電話番号やメールアドレスによる検索機能を廃止するなどの対策を講じている。また公聴会に呼ばれたザッカーバーグ氏は、サイト利用者保護のために偽アカウントや投稿内容を確認する要員を年内に5000人増やして2万人にすると表明した。しかし「人と人をつなげて世界を近づける」とザッカーバーグ氏が語るFBの理念と世界的なユーザー規模からすれば、どれだけ対策しても万全ということにはならないだろう。
そもそもFBは無料サービスである。20億人のユーザーから金を取らないでどうやって儲けているかといえば、広告収入だ。当然、広告効果を上げるために、ユーザーが公開している個人情報や言動を分析したり、膨大な外部データを紐付けたりしている。よく知られているのはFBの「いいね」ボタン。どのような情報、コンテンツに対して「いいね」を押したか、データを集めて解析すれば、さまざまなことがわかる。
ケンブリッジ大学のマイケル・コシンスキー氏の研究によれば、ユーザーが白人か黒人かは95%以上の確率で判別でき、共和党支持か民主党支持か(85%)、キリスト教徒かイスラム教徒か(82%)といったことも判別可能。年収や知能指数まで分析できるというのだ。GPSによる位置情報データを活用すればどこの集会に行ったとか、デモに参加したかもわかるから、支持政党はもっとハッキリする。行動パターンや立ち回り先で思想信条、趣味嗜好まで相当に絞り込めるのだ。